J・S・バッハとバロック音楽

クラシック音楽の事始め

【画像引用 いらすとや】
私が自分の意志でレコードを買ったのは中学生のころでした。買ったのは書店で売っていたクラシックの名曲全集でした。LPレコード2枚組で1~3人の作曲家が取り上げられていました。全体で20巻ぐらいだったと思うのですが、バロック音楽から現代音楽まで、有名な作曲家を網羅していました。
それまでアニソンや歌謡曲を聴いていましたが、あまりピンとくるものがなく、クラシックに興味を持つようになりました。多分に背伸びしたいところがあったと思うのですが、実際に聴いてみていろいろと気に入ったので、現在に至るまで聴いています。
最初は誰でもが聴く、ベートーヴェンやモーツァルトを聴いていたのですが、次第にバロック音楽に惹かれるようになりました。その中でもJ・S・バッハが好きになりました。音楽に対する好みは少しずつ変わりましたが、バッハとバロック音楽だけは現在に至るまで変わらず聴いています。

ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685~1750)について

【画像引用 YouTube】
J・S・バッハは17世紀から18世紀にかけて活躍したドイツの作曲家です。バッハ一族は音楽家一族で、J・S・バッハ以外では、バッハの長男のヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ(1710~84)と次男のカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ (1714~88)が有名です。J・S・バッハは一族中ではもっとも有名なため、後世では大バッハと呼ばれるようになりました。
バッハは音楽家一家の8男として産まれました。当時の音楽家の一般的な職業である宮廷楽団の楽員となり、教会や宮廷で。ヴァイオリンやオルガンを演奏しました。特にオルガンの演奏は評価が高く、即興演奏で腕をふるったそうです。
生涯2度結婚し(先妻は病死しています)、2人の妻の間に20人の子供をもうけました。この内10人は夭折しましたが、10人は成人し上記の二人を含む音楽家に成長しました(20人という数に驚きますが、この時代ではごく当たり前でした)。
多くの子供を養うために、少しでも給料の多い楽団に努めようとして、ドイツ国内を転々としていました。後世宗教音楽家としてその存在が祀られますが、実際はお金にシビアな職業音楽家だったそうです。
当時のドイツはルター派のプロテスタント国家で、J・S・バッハもプロテスタント教会のための音楽「カンタータ」を作りました。それ以外にも教会で弾くオルガン曲や、宮廷で演奏される室内楽曲など、オペラを除くほぼすべてのジャンルの曲を書きました。また当時は著作権という概念はなく、作曲されたものは基本的にその場限りのものだったので、作曲数は多く現存するものだけで1000曲以上を数え、現在でも新しい曲が発見されることがあります。代表曲としては2つの受難曲(「マタイ受難曲」と「ヨハネ受難曲」)、チェンバロのための「ゴールドベルグ変奏曲」、弦楽器のための「G線上のアリア」などが有名です。また愛妻家で子供好きで、妻や子供のための練習曲も多く書きました。
J・S・バッハの音楽はバロックの対位法音楽の集大成な存在でしたが、当時台頭してきた和声的な古典派の音楽に押され、同時代のG・F・ヘンデル(1685~1759)だけでなく、2人の息子よりも知られておらず(当時はバッハと言えば次男のバッハを指していました)、死後急速に忘れられました。
しかし一般の聴衆には忘れられた存在でしたが、後世のベートーヴェンやモーツァルトにとっては偉大な存在で、大きな影響を与えています。しかし1829年作曲家フェリックス・メンデルスゾーン(1809~47)によってマタイ受難曲が再演され、近代西洋音楽の父として評価されるようになりました。その音楽はクラシック音楽だけでなく、ジャズやポップス音楽にまで影響を与えています。

J・S・バッハの演奏家たち

J・S・バッハの作品の演奏を得意とする演奏家が多くいます、その中で私の好きな3人の演奏家を紹介したいと思います。

グレン・グールド(1932~82)

【画像引用 FACEBOOK】
グレン・グールドはカナダ生まれのピアニストです。1956年に発表されたバッハの「ゴールベルク変奏曲」のLPが大きな話題を呼び、クラシック音楽としては珍しいチャート1位の売り上げを出しました。「ゴールドベルク変奏曲」はバッハの作品の中では比較的知られていない作品だったのですが、グールドの演奏で注目を浴び、その後ピアニストやチェンバリストの重要なレパートリーになりました。
グールドの演奏法は、これまでピアニストが行っていたレガート(*1)気味の演奏ではなく、チェンバロのようなスタッカート(*2)気味の演奏を行いました。これは後述する、古楽器による演奏に繋がるもので、先駆的な演奏法でした。
グールドは演奏会での表現に限界を感じ、1964年以降活動をレコード録音のみに限定しました。また録音に当たっては録音を繰り返し行い、演奏がうまくいった部分をつなぎ合わせて構成しました。
この電子メディアを重視した考え方は、同時代に活躍した同じカナダ出身哲学者マーシャル・マクルハーン(1911~80)のメディア論の考え方にもつながり、クラシック界だけでなく、多ジャンルのアーティストや、哲学・社会学にも大きな影響を与えました。
グールドにとってバッハ最も重要なレパートリーで、生涯をかけて鍵盤作品の大半を手掛けました。もう少しで全作品録音に手が届くところで、1950年脳卒中で亡くなりました。まだ50歳の若さでした。

ニコラウス・アーノンクール(1929~2016)


【画像引用 個人ブログ】
ニコラウス・アーノンクールはオーストリア出身の指揮者・チェリストです。貴族の出身で伯爵の称号を持っています。ウィーン交響楽団でキャリアをスタートさせましたが、1953年ヴァイオリニストである妻のアリス・アーノンクールや、ウィーン交響楽団のメンバーと共に、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスという古楽器によるオーケストラを作りました。
これまでバロックやそれ以前の音楽が演奏される際には、現在使われている楽器を使っていましたが、様々な研究が進む中でバロック音楽の特性を生かすには、演奏された当時の楽器を使うのが望ましいとされるようになりました。また演奏法に関しても弦楽器ではあまりヴィブラートを使わず、スタッカート気味に演奏することが当時は一般的だったいうことが判るようになりました。アーノンクールはこれらを実践するため、演奏当時の文献を研究し、古楽器の作成にも関わり、また古い演奏法のスタイルを調べるため、民族音楽の研究まで行いました。
このアーノンクールの取り組みはクラシック音楽界に大きな影響を与え、演奏当時の楽器や演奏法を重視する考え方は一般的になりました。しかし後継者のなかには金科玉条的にこの考えを取り入れ、正しい時代考証は出来ているが、出来上がったものはつまらないものになるケースが多くみられるようになりました。しかしアーノンクールの演奏はそういった化石化したものではなく、とてもエキサイティングにあふれる情熱的な演奏でした。また古楽器にこだわらず、現代の楽器を使った演奏にも取り組みました。
アーノンクールにとってバッハは重要なレパートリーで、著者が聴いたものの中では、特に「マタイ受難曲」の演奏が感動的で、従来のものに比べて若干アップテンポな演奏が、躍動感を感じさせました。
日本にもたびたび来日しており、筆者も一度聴きに行って、そのドライブ感を堪能しました。2016年に亡くなりましたが、今も後進に影響を与えています。

高橋悠治(1938~)


【画像引用 YouTube】
高橋悠治は日本の作曲家・ピアニストです、以前「私の好きな現代音楽(2)」でも取り上げましたが、様々なスタイルで作曲を続けており、また演奏家としてはかなり特異なレパートリーで演奏活動を続けています。
バッハの作品は、高橋悠治のレパートリーの中では重要な位置を占めています。デビューアルバムがバッハの作品を集めたもので、筆者も聴きましたがこれまで聴いてきたバッハの演奏と違い、どちらかというとジャズに近いドライブ感のあふれる演奏でした。
高橋悠治は、バッハのレコード録音や、演奏会のレパートリーにするだけでなく、バッハ作品を自身の作曲作品に組み入れたり、バッハに関する文章も多く書きました。高橋悠治はバッハの音楽は近代化する以前のヨーロッパ音楽を体現する「野蛮」な音楽で、近代思想が行き詰まるなかで、バッハの音楽を次の時代の音楽にヒントを与えてくれる存在として捉えなおしていました。
最近のインタビューの中で、当時現代音楽のレコードを出すに当たって、それだけでは利益が出ないので、併せて必ずバッハの作品を録音してほしいと言われ、渋々行っていたと証言をしていました(しかし高橋悠治は発言に韜晦が多く、別の証言によると結構積極的に録音していたという話もあり、真相は藪の中です)。
筆者は多くのバッハのレコードを聴きましたが、渋々演奏しているようには思えず、むしろ高橋悠治の演奏したレコードの中では、最も生き生きとしているように思えました。たびたび演奏会にも趣き、バッハ作品の演奏を聴きましたが、いずれもドライブ感あふれる素敵な演奏でした。現在82歳の高齢ですが、演奏活動を続けており、無理せずに長く活動してほしいものです。

音楽の楽しみ

筆者は最近153枚組(!)のバッハ作品全集のCDを買いました(輸入盤なのでロープライスなお値段でした)。少しずつ聴いていますが、筆者にとっては至福の時間です。

バッハが務めた聖トーマス協会とバッハの彫像
【画像引用 ドイツ情報サイト】
*1 レガート
レガート
*2 スタッカート
スタッカート

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local_offerevent_note 2020年11月27日
  • スピノザ

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