映像の中の障害者

1 映画「フリークス」(1932)

【上記画像は「サブカルチャーペディア」より引用】
トッド・ブラウニング(1882~1962)監督のアメリカ映画です。トッド・ブラウニングはホラー系の映画を得意とする監督で、ベラ・ルゴシ(*1)主演の「魔人ドラキュラ」が有名な作品です。
「フリークス」はいわゆる復讐譚ものです。舞台はおそらく20世紀の初めごろの移動サーカス団。当時の多くのサーカス団の同様に、障害者が見世物として扱われていました。物語はサーカス団花形の空中ブランコの美女が、小人症の男性と遺産目当てで付き合うところから始まります。実際には怪力男の愛人がおり、結婚の後に小人症の男性を毒殺しようとします。しかし他の団員達に企みを見抜かれ、愛人ともども復讐をされるという話です。
この映画の最大のポイントは、特殊メークなどを使わず、すべて実際の障害者が演技している事です。障害の内容について書くと、低身長症(小人症)、吃音障害、結合双生児、るいそう症(*2)、インターセクシュアル(*3)、小頭症、下半身欠損、上腕欠損、などです。
監督は若い頃にサーカス団で働いていた経験があり、身近に障害者がいたようです。この映画は公開当時、その内容が問題視されスキャンダルとなり、監督としてのキャリアが閉ざされてしまいます。この映画が問題視されたのは、「差別的」という視点ではなく「不道徳」という視点だったようです。障害者が健常者に復讐するという話がありえないと思われたようです。ネタバレになるので書けませんが、復讐の結果がある意味凄まじいもので、おそらくこのラストが一番問題になったのだと思います。
しかし映画自体は、復讐シーンを除くと淡々とした内容で、障害者の日常が細やかに描かれています。特にあるカップルのエピソードがとても微笑ましい内容です。
元々90分程度の長さだったそうですが、問題とされたシーンがカットされ60分程度の長さになりました。現在残っているのはこの60分ヴァージョンのみで、映画の全体像は残された脚本でしか伺うことができません。
DVDがレンタルで観ることが出来ます。興味のある方は一度観て下さい。

2 こびとのマーチャン(本名深沢政雄、1921~2000)

【上記画像は「20世紀秘密基地」から引用】
低身長症の俳優です。日劇のショーや、タップダンス、芝居、キャバレーや舞台でのコミックショーで活躍しました。現在はゴジラシリーズの怪獣で、ゴジラの息子ミニラ(*4)の「中の人」(*5)として特撮ファンの間で良く知られています。ある時期から「こびと」を外して「マーチャン」とだけ名乗るようになりました。晩年は特撮作品にちょい役で出演していました。
外国では低身長症の俳優はかなり活躍しています。特にファンタジーやSF作品で、ホビットや子供型宇宙人の役などで出ています。「チャーリーとチョコレート工場」に出演していたディープ・ロイ(1957~)や、「オースティン・パワーズ」に出演していたヴァ―ン・トロイヤー(1969~2018)が日本でも有名です。それに比べると日本では低身長症に限らず障害者の俳優が少ないように思います。低身長症に関しては、過去にはコント番組への出演(*6)や、小人プロレス(*7)があったのですが、「見世物扱いだ」という批判が起こり、TVで観ることが少なくなりました。結果的に低身長症の俳優を観ることが少なくなり、なにか本末転倒の感があります。

3 映画「37セカンズ」(2020)

【上記画像は映画HPから引用】
HIKARI(生年月日未公表)監督の長編デビュー作品。タイトルは主人公の女性が、出産時に37秒間無呼吸だったため、脳性麻痺になったエピソードからきています。
監督の実体験をもとに作られた映画で、主人公の脳性麻痺の女性を、実際に脳性麻痺の俳優が演技をしてます。といっても俳優はオーディションで選ばれた人で、演技は初めてだそうです。
ストーリーは23歳の女性障害者の自立の物語なのですが、いわゆる「障害者感動もの」とは少し趣が違います。主人公は有名少女漫画家のゴーストライターをやっています。自分の名前でデビューしたいのですが、障害者であることから編集者に難しいと言われます。それで比較的縛りの緩いエロ漫画系雑誌でデビューを果たそうと思います。原稿を持って女性編集者の元を訪ねるのですが、「良く書けてるけど、セックスの表現が稚拙」と言われ、その後「セックスの経験はあるの?」と聞かれ、「ない」と答えると、一度経験してみたら言われ、それを実行に移そうとします。
ネタバレになるのでこれ以上詳しくは書けませんが、この後の展開が結構笑える内容で、なおかつ障害者の抱える問題をひとつひとつ丁寧に描いています。特に母親との関係が良く描かれています。映画の開始早々、入浴介助をする母親の俳優と共に全裸で演技をしたり、風俗系の女性や。LGBTの人との出会いが楽しく描かれていて、なかなか楽しい内容です
ただ残念なことにことに、映画の後半になると、このどこかファンキーが感じがなくなってきて、少し「感動もの」的な様子になってきます。感動自体は悪くないと思まいますが、せっかくの前半のファンキーな展開を生かしつつ、後半のシリアスな物語を描けば、もっと良い作品になったと思います。少々辛口な評価になってしまいましたが、それでも日本映画でここまで障害者の日常や気持ちを描いた作品はなく、一見の価値はあると思います。
上映はすでに終わっていますが、いずれDVDが出ると思います

以上「映像の中の障害者」でした。またこのテーマで書くことがあるかと思います。

【画像引用 価格コム】
*1 ベラ・ルゴシ
ベラ・ルゴシ
*2 るいそう症
身体の脂肪質が以上に減少すること。疾病名というより他の病気により発生する身体の状態を指します。
*3 インターセクシュアル
染色体異常の理由などにより、身体的に性分化が行われていない症状を指します。医学的には性分化疾患と呼ばれています。性同一性障害と混同されることがありますが、全く別ものです。過去には「半陰陽」と呼ばれていました。
*4 ミニラ
ゴジラシリーズの怪獣。ゴジラの息子の設定。後の平成ゴジラシリーズに出る「ミニゴジラ」と違い、あまり親ゴジラに似ていないので、特撮ファンの間ではあまり評判がよくありません。
*5 「中の人」
ネット用語。声優や着ぐるみ演者のように、顔出しをしない俳優を指すときに行く使われています。
*6 コント番組への出演
日本で低身長症の喜劇俳優といえば白木みのる(1934~)が有名です。様々な映画・演劇・テレビに出演していましたが、藤田まこと(1933~2010)と共演した時代もの喜劇番組の「てなもんや三度笠」(1962~68)が有名です。また低身長症の俳優がドリフターズのコント番組に度々出演していたのを筆者はみたことがあります。
*7 小人プロレス
「ミゼットプロレス」とも言います。日本では女子プロレスと一緒に興行をおこなっています。過去にはテレビ放送もされていましたが、「見世物扱い」との批判が出て、放送されなくなりました。後継者難もあり一時は試合が出来なくなる状況になりましたが、近年は再評価が進み、人気が復活しつつあります。

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local_offerevent_note 2020年5月1日
  • スピノザ

    フィットボクシングでダイエットしてます