映画「ジョーカー」から見えてくるもの


【画像引用 Amazon】
封切りまもない時期に映画「ジョーカー」を観てきました。この映画はアメリカのDCコミックスのヒーローバットマンの、悪役として有名なジョーカーを主人公にした物語です。道化師の扮装をして自分の楽しみのために犯罪を犯すというキャラクターで、これまでも色々なバットマン映画で登場してきたキャラクターですが、最近では2008年に公開された「ダークナイト」でヒース・レジャーが演じたジョーカーが強い印象を映画ファンに与えました。今作ではホアキン・フェニックスという俳優が演じています。
話題作ということで観客も多く、内容も前評判通りよくできた内容でした。映画の紹介は色々な媒体で行われていますが、いくつかの批評文でアーサー(ジョーカーの本名)がトゥレット症候群(注)であるとの解説が載っていました。このことが少し気になったので、そのあたりを意識しながら映画を観ました。
しかし、劇中ではトゥレット症候群であるとの話はなく、また障害を持つに至った原因と思われる(断定はされていませんが)話が出てくるのですが、それが事実だとしたらトゥレット症候群ではないことになってしまいます。念のためパンフレットを購入して読んでみたのですが、トゥレット症候群に関する記載はありませんでした。
ネットでも色々調べてみたのですが、はっきりとしたことは分かりませんでした。このような映画で障害名が特定されるのことは、もし間違った表現がされると偏見を助長しかねない側面があります。これはフィクションで障害が取り上げることの難しさだと思います。
映像から分かるのは、アーサーがなんらかの障害のため重いチック症状をかかえていること、そのために本人の意思と関係なく奇声を発したり笑い声をあげてしまうこと、無償提供されている向精神薬によって若干チック症状が収まっていること、ヘルプカード(障害者が携帯し、いざというときに必要な支援や配慮を周囲の人にお願いするためのカード)を携帯している、等です。
しかしゴッサムシティの財政状況の悪化のため、向精神薬の無償提供は中止されてしまい、薬で抑えられていた症状が再発します。そしてこのことが彼の運命を大きく変える転機にもなっています。

【画像引用 ディスカバーミュージック】
舞台となるゴッサムシティ(バットマンシリーズの架空の都市で、アーサーが住んでいる街)は富裕層が住む街であると同時に、多くの低所得者層が住む街でもあります。色々な福祉的恩恵は富裕層にのみもたらされており、財務状況の悪化という理由で、低所得者層の福祉的政策は少しづつ減らされています。向精神薬の無償提供の中止というのもこの政策の一環として行われました。日本でも近年問題になっている「格差」社会の問題がリアルに描かれており、ジョーカーになるというコミック的要素がなければ、社会派ドラマといってもよい描写です
この状況の中で貧しい人たちは未来への希望を失い、犯罪や暴動が絶えません。一方富裕層は、貧困は自己責任であると明言し、犯罪行動に走る人たちの存在を苦々しく思い、警察を使って封じ込めようとします。
ここで描かれれる富裕層像はかなり醜悪で、彼らの心無い言動や行動がアーサーの心を痛めつけます。アーサーは心を病んだ母親の介護しており、コメディアンになることを夢見ながら、イベントや病院への派遣ピエロの仕事をしていますが、人が良く要領も悪いため上手くいかず、ぎりぎりの収入で生活しています。
すべての事柄がアーサーを窮地に追い詰めていきます。偶然の連鎖がすべて悪い方に傾いていくのですが、それが絵空事に思えないのは、私たちの周りでも実際に起こりえるような事柄だからです。人によっては見につまされる辛い映画化もしれません。
障害ゆえにアーサーは笑い続けます。アーサー役を務めるホアキン・フェニックスの演技は素晴らしく、笑いの中に彼の悲しみや怒りが込められています。物語の終盤のあるシーンで私は泣いてしまいました。私は自分がなぜ泣いているのか分からないまま、しばらく泣き続けました。

【画像引用 東洋経済オンライン】
しかし観終わった後ふと疑問を感じました。ネットを見ると私と同じ思いを書いている文章を見つけました。「これはすべてアーサーの妄想ではないか?」と。映画の中にその事を示唆するようなエピソードが挿入されており、あながち間違ったとらえ方ではないように思います。
映画が終わって帰ろうとすると、私の一列前に男性が身体障害者の若いカップルがいて、彼女の方が彼に映画の感想を尋ねていました。それに対して彼は「これは誉め言葉だよ」と断ったあと「とても悪いジョークだね」と言いました。私はいまのところこれ以上の的確な評価を思いつきません。
この映画はいろんな方にお勧めしたいです。一方でこの映画を観て心を傷つけてしまう人もいるかもしれません。だからこれから観る人はあくまで「悪いジョーク」として鑑賞してください。
最後にひとこと。これも観てもバットマンシリーズのマイベストは「バットマン・リターンズ」です!
注 トゥレット症候群(TS:Tourette’s Syndrome)
TSと略されることもあります。多種類の運動チックと1つ以上の音声チックが1年以上にわたり続く重症なチック障害です。通常は幼児・児童・思春期に発症します。多くの場合は成人するまでに軽快する方向に向かうと言われています。
運動チックとは:突然に起こる素早い運動の繰り返しです。目をパチパチさせる、顔をクシャッとしかめる、首を振る、肩をすくめるなどが比較的よく見られ、時には全身をビクンとさせたり飛び跳ねたりすることもあります。
音声チックとは:運動チックと同様の特徴を持つ発声です。コンコン咳をする、咳払い、鼻鳴らしなどが比較的よく見られ、時には奇声を発する、さらには不適切な言葉を口走る(汚言症:コプロラリア)こともあります。
※このような運動や発声を行いたいと思っているわけではないのに行ってしまうということがチックの特徴です。
(発達障害情報・支援センターHPより引用)
「ジョーカー」公式ホームページ

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local_offerevent_note 2019年11月15日
  • スピノザ

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