障害者差別解消法とJR乗車拒否「事件」について

障害者差別解消法とは?

皆さんは「障害者差別解消法」を知っていますか?
「障害者差別解消法」、正式には「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」といいます。平成25年に制定された法律で、「障害者基本法の基本的な理念に則り、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。」というものです。
具体的には次の2点が重要な要素になっています。
「不当な差別的取扱い」
障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件をつけることなどにより、障害者の権利利益を侵害すること。法は、事業者、行政機関等いずれに対しても不当な差別的取扱いをすることを禁止している。
「合理的配慮の提供」
行政機関等及び事業者に対し、その事務・事業を行うにあたり、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮を行うことを求めている。行政機関等については合理的配慮の提供は法的義務、事業者については努力義務として定められている。
さてこれを実際の社会に当てはめるとどうなるのでしょうか?
障害者が社会で生活していくうえで、様々な「障害」が存在しています。特に身体障害者で大きな問題になるのが「移動」に関することがらです。例を挙げると
交通機関の利用
自力での移動手段の確保
就労環境の問題
商業店舗の利用
等があげられるかと思います。

合理的配慮とは?

法律はこれらの「障害」に対して、「合理的配慮」の提供が求められています。
「合理的配慮」とは、「障害者から何らかの助けを求める意思の表明があった場合、過度な負担になり過ぎない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要な便宜のことである。」というものです。
ひとことで言うといわゆる「バリアフリー」です。
上記の項目であげれば、
「交通機関の利用」
スロープやエレベータの設置で、移動を容易にする。
駅のホームにおいて「ロープ昇降柵」「ホームドア」を設置し転落を防ぐ。
ホームに駅員を配置し、緊急事態に備える。
「自力での移動手段の確保」
電動車いすの性能の向上とコストダウン。
自動車での障害者対応装備。
免許取得や自動車購入への経済的配慮。
「就労環境の問題」
職場での移動の配慮(スロープ、等)
作業環境の改善(車いすで可能な作業場、等)
「商業店舗の利用」
段差をなくし、エレベータ、等を設置する。
障害に対応した机やイスの配置。
などがあげられます。
しかし「合理的配慮」の項目で以下の条文が見られます。
「行政機関等については合理的配慮の提供は法的義務、事業者については努力義務として定められている。」
判りにくい文章ですがざっくり言うとこういうことになると思います。
公的な機関や大企業では、現状を改善してバリアフリー化することはそれほど問題ではありません。しかし中小企業や個人商店などでは、経済的な理由で改善が難しいケースが多くなります。本来は改善に対する経済的負担を軽減するため、国や自治体から援助があるべきだと思うのですが、実際にはあまりありません。これは災害やコロナ禍でも指摘されていたことです。よく予算がないと言われますが、実のところ予算の配分は可能ですが、行政が前例のないことを行いたくないという思惑があるのだと思います。
とは言えこの点は急な改善が難しい側面があります。しかし公的な機関や大企業でも行われていないケースがよく見られます。

JR乗車拒否「事件」

この点に関して最近あった、ある「事件」が思い起こされます。
伊是名夏子さんという障害者の方が、JRを利用した際に乗車駅を指定して介助をお願いしたところ、階段のみで危険性があり、無人駅で職員が常駐していないことを理由に断ったそうです。伊是名さんは合理的配慮を理由に対応を迫りました。いろいろなやり取りの後、JRは対応し無事乗車が出来たそうです。
伊是名さんはJRの対応に疑問を感じ、自身のブログに顛末を書きました。その後それに対する一般からの賛否両論の意見がよせられ、JR側からの反論も寄せられました。この顛末を詳しく書くと長くなるので、以下のふたつの文章が参考にしてください。
伊是名夏子さんのインタビュー記事>>
私はこの「事件」に関する報道や意見を見て、大きな違和感を持ちました。多くの意見は伊是名さんやJRのやりとりの言葉遣いや対応の問題に終始していました。行い自体は間違っていないが、伊是名さんの行いが少々行き過ぎではないかとの意見が、障害者側からも出されました。
しかし筆者はこの「事件」の本質はそこにはないと思いました。それは「障害者差別解消法」の施行から数年の年月が経っているにも関わらず、JRが「合理的配慮」を怠ってきたことです。これが制定から1~2年のことであれば、多少は仕方ない面があるかと思います。また小さな企業であれば改善が難しいことも考えられます。しかしすでにかなりの時間が経っており、JRのような大企業がそれを怠ってきたことは、あまりにも社会的な責任感に欠けることだと思います。
たしかに大企業とはいえJRにそれほど経済余裕がない面もあるかもしれません。しかし目先のコストを惜しめば、結局より大きな問題を招くことは「JR福知山線脱線事故」(*)を見れば明らかだと思います。無人駅を廃止して職員を常駐させ、エレベータの設置を行っていれば、そもそもこのような問題自体起らなかったはずです。一部では対応した職員に対する批判の声が聞かれましたが、むしろ彼らも上層部の誤ったコスト意識の被害者だといえると思います。
問題の本質を些末の細部に見るのではなく、全体的な視点から見ることが「合理的配慮」に必要なことだと思います。

伊是名夏子さん
【画像引用 ライブドアニュース】
* JR福知山線脱線事故
JR福知山線脱線事故

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local_offerevent_note 2021年5月14日
  • スピノザ

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