世界の映画監督(1)デヴィッド・クローネンバーグ

D・クローネンバーグ(1943~)

【画像引用 映画の時間】
デヴィッド・クローネンバーグはカナダの映画監督です。最初は作家を目指しましたが、自身の才能に限界を感じ、映像の世界に進むことにしました。当初は主に短編や実験的な作品を制作していましたが、寄生生物の恐怖を描いた「シーバース」(1975)により、メジャーデビューをしました。
当初は低予算のホラー映画を製作していましたが、超能力者同士の闘いを描いた「スキャナーズ」(1980)や、ヴィデオの幻想的な恐怖を描いた「ヴィデオドローム」(1983)などで高い評価を得るようになりました。
その後「デッドゾーン」(1983)でアヴォリアッツ国際ファンタスティック映画祭の3部門、「ザ・フライ」(1986)でアカデミー特別効果賞を受賞し、それ以降の作品でも映画賞を次々取り続け、国際的な評価も高まりました。
特撮を駆使しての、内臓的なでロテスクな感覚の作風が持ち味でしたが、「ヒストリー・オブ・バイオレンス」(2005)では、リアルな描写で暴力に傾いていく人間の狂気を描き高い評価を得ました。
また他監督の作品に俳優として出演することも多く、ドラマ「スタートレック:ディスカバリー」(2017)などに出演しています
筆者が最初に観たのは「ザ・フライ」でした。グロテスクな映画でありながら、人が自分ではない物に変わっていく様子を、哀切を込めて描いた内容に惹かれました。その後初期の作品をレンタルで観て、近作は劇場で観るようになり、現在に至るまで私の好きな監督です。全体的にグロテスク表現が多いので、若干観る人を選びますが、人間の思いや感情を切実に描いた作品が多く、観終わった後、癒されることさえあります。興味があればぜひ観てください。

ドラマ「スタートレック:ディスカバリー」(2017~)への出演
【画像引用 モデルプレス】

デッドゾーン(1983)

【画像引用 ライブドアブログ】
「デッドゾーン」はスティーブン・キング(1947~)原作(1979)の映画です。キングは自作の映像化に対する評価が厳しく、作品によっては全否定される場合もあるのですが、この作品はキングからも高い評価を得ています。
物語は事故により昏睡状態に陥った主人公の男が5年後に目を覚ましますが、目覚めた後に、人の身体に触れるとその人の過去や現在はおろか、未来までビジョンとして見えるという超能力を得るようになりました。主人公はこの能力を使って、警察に協力して事件を解決し、未然に事故を防ぐなどの活躍をします。
主人公はある日、ひとりの大統領候補に出会い握手をします。その瞬間に彼はひとつのビジョンを見ます。それはその候補が大統領になり、核ボタンを押す様子でした。
主人公は悩んだ末ある決断をします。これ以上はネタバレになるので書けませんが、ある意味斜め上を行くラストに驚かされます。
原作は多視点で書かれていますが、映画は主人公の心情に寄り添い書かれています。映画を観終わった後は、深い感動に包まれていると思います。クローネンバーグ作品としてはグロテスク表現が少なく、ストーリーも判りやすいので、最初に観るクローネンバーグ映画として最適だと思います。


「ヴィデオドローム」(1983)
【画像引用 ホビールーム】

ザ・フライ(1986)

【画像引用 個人ブログ】
「ザ・フライ」はフランスの作家ジョルジュ・ランジュラン(1908~72)の原作「蠅」(1957)に基づく映画です。この原作により以前「ハエ男の恐怖」(1958)という映画も作られましたが、内容は基本設定以外かなり違っています。
物語は主人公の科学者が、物体を分子レベルで解体し、それを電気信号に変えて転送して別の場所で再構築するという、物質転送機を開発します。数回の動物実験を繰り返した後に、自身の身体を使い実験を行います。しかしその際にたまたま紛れ込んだ1匹のハエが転送されてしまい、しかも人間とハエが遺伝子レベルで「結合」されます。
主人公はそのことに気が付きませんでした。時間とともに主人公の身体能力がレベルアップしていくので、転送の副効果と思い喜びます。しかし次第に身体の形状が加速度的に変化するようになります。異常に気が付いた主人公がデータ解析を行うと、そこで初めてハエと「結合」したことに気が付きます。
最初、主人公は絶望に打ちひしがれますが、次第に新しい進化の形と思うようになります。しかしそれは狂気と恐怖の始まりでした。
「ハエ男の恐怖」では、顔と手がハエになっているという少々お粗末な感じでしたが(映画自体は傑作です)、「ザ・フライ」では当時最新の特撮技術を駆使して、人間でもハエでもない別の生物に変化していく様子を克明に描いています。次第に狂気にとらわれていく主人公は、恐ろしい計画を経てるのですが、それは人間の持つ悲しい性を具現化するものでした。ラストは登場人物の哀しみと共に終わります。
グロテスク表現が多いので観る人を選びますが、クローネンバーグ作品としてはおそらく最も著名な作品で、後世に残る傑作だと思います。


「ハエ男の恐怖」(1958)
【画像引用 amebaブログ】

裸のランチ(1992)


【画像引用 シネモア】
「裸のランチ」はウィリアム・S・バロウズ(1914~97)原作(1959)による作品です。バロウズは1950年代アメリカのビートジェネレーション世代を代表する作家で、この時代のサブカル文化に大きな影響を与えた、「ドラッグ」に関わる多くの作品を書き続けました。彼の作品は筋道だったストーリーはなく、様々な断片が入り乱れる「カットアップ」技法を使って作品を書いていました。彼の作品は同時代に多くの影響を与え、文学だけでなく、SF、映像、音楽にも大きな影響を与えました。バロウズ自身もドラッグの常習者で、繰り返し治療を行っていました、たびたびリバインドを繰り返し、友人と「ウィリアムテルごっこ」をした際に誤って妻を射殺してしまうという悲劇にも見舞われました(このエピソードは映画の中でも再現されています)。
映画はこの作品のエピソードをある程度時系列に沿って物語を作っています。しかしそれでも映画の内容はかなり難解で、クローネンバーグファンにとってもかなり判りづらかったようです。
映画中には様々な奇怪なものたちが跋扈し、人の言葉をしゃべる巨大なゴキブリ、魚の顔をした男、虫に変身するタイプライターなどの多くのクリーチャーが現れます。これらはドラッグが見せる幻覚なのですが、次第に幻覚が現実に侵食していき、なにが現実なのかが判らなくなっていきます。
残虐描写はあまりないのですが、クリーチャーの造形がかなりグロテスクなので、生理的に受け付けづらい方もいると思います。しかしその点を受け入れれば、豊饒な映像世界に引き込まれ、かなり不思議な映画体験ができます。多少ハードルが高いので、他作品を観てから観賞したほうが良いと思います。
クローネンバーグの3作品を紹介しました。かなり取っつきの悪い映像表現ですが、それを受け入れれば、楽しめる作品だと思います。


「ヒストリー・オブ・バイオレンス」(2005)
【画像引用 シネムービー】

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local_offerevent_note 2021年7月9日
  • スピノザ

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