世界の映画監督(2)ギレルモ・デル・トロ

ギレルモ・デル・トロ(1964~)

監督近影
【画像引用 スクリーンオンライン】
ギレルモ・デル・トロはメキシコ出身で、現在主にハリウッドで作品を制作している映画監督です。幼少期は多くのアニメ・特撮作品を観て育ちました。その中には日本の作品も多く、それらの作品に対してオタク的愛情を注いでいます。そのためアニメ監督の押井守(1951~)を尊敬しており、またマンガ家の永井豪(1945~)と出会った際には「彼はモーツアルトだ!」と叫んだそうです。
作品は監督のアニメ・特撮愛を体現したエンタメ性の高さを誇る一方、社会や歴史に対する批判的視線を強く持ち、特にマイノリティーに対する差別や、権力志向の愚かさを描いた作品を多く作っています。
人間に潜む悪や、割り切れない複雑な感情を描く一方、勧善懲悪や生きることの幸せを描いており、かなり救われない終わり方をしても、観終わった後の印象は決して悪くない作品が多いです。今後も活躍の期待できる監督です。

日本での様子
【画像引用 ムービーウォーカー】

「パンズ・ラビリンス」(2006)

「パンズ・ラビリンス」
【画像引用 BIBI】
「パンズ・ラビリンス(El laberinto del fauno)」は2006年に制作された、メキシコ・スペイン・アメリカの合作映画です。
物語はスペイン市民戦争が終わり、敗北した市民戦線の生き残りが、ゲリラ活動を続けている時代です。
主人公のオフェリアは父親を亡くし、おなかに子どもを宿す母親と共に、フランコ独裁政権のピダル大尉のもとに嫁ぐことになりました。再婚は愛情からではなく、生きていくために母親が選んだことでした。大尉は生まれてくる子どもを男の子と信じ込み、女の子のオフィリアの存在を無視し、母親に愛情の傾けることのない独善的な男でした。
現実から逃避するオフィリアは、ある日妖精に導かれ森の中でパン(牧神)と出会います。そこでパンはオフィリアに地底の王国の姫であることを伝えます。しかし地底に戻るには3つの試練を果たさなければいけないと言いました。しかしその試練は想像を絶するような厳しいものでした。
映画館で初めて観たときは、事前にダークファンタジーであるとの情報だけで、少し暗めのファンタジー作品かと思っていました。しかし映画を見始めて数分あまりで「これはとんでもない映画だなあ」と劇場の暗闇の中で感じたことを憶えています。そしてこれがギレルモ・デル・トロ監督との最初の出会いでした。
映画は大尉とゲリラとの戦いを描いたリアルで残酷なパートと、オフィリアが果たす3つの試練のパートが並行しながら進みます。オフィリアの試練は彼女の紡ぎだした幻想のようにも、現実のことのようにも描かれ、最後までどちらかは判りません。3つの試練が幻想だとしても、試練はあまりにも過酷なもので、途中試練の達成に失敗しますが、パンに再チャンスを与えられ、最も過酷な試練を受けることになります。
大尉による拷問シーンなどもあり、残酷描写が多いのですが、直接的な表現は避けられていて、あまりショッキングなところはありません。むしろ大尉のサディスティックな心理がおぞましく、むしろそちらのほうに心がさいなまれるようところがあります。
ネタばれになるのでこれ以上詳しくは書けませんが、エンディングはかなり解釈の分かれる内容です。しかしおそらくこの映画を観た多くの観客は、これをハッピーエンドとして読み解きたいと思ったことでしょう(筆者にとっても)。
かなり観る人を選ぶ内容で、またスペイン市民戦争の知識がないと、映画の背景が判りにくいかもしれません。しかし戦火が絶えない今の時代だからこそ、いろいろな人に見てほしい映画です。また劇中に出てくるクリーチャーは、日本の妖怪や特撮が好きな方には必見です。


クリーチャーのペイルマン(日本の妖怪手の目を連想させます)
【画像引用 個人ブログ】

「パシフィック・リム」(2013)

「パシフィック・リム」
【画像引用 BIBI】
「パシフィック・リム(Pacific Rim)」は2013年制作のアメリカ映画です。この作品は「パンズ・ラビリンス」と違い、家族で楽しめるエンタメ作品です(筆者も家族で観ました)。
物語は深海低から突然現れた「カイジュー」と、二人一組で操作する巨大ロボットとの闘いを描いたものです、主人公のローリーは兄とともにロボット「ジプシー・デンジャー」で突如現れたカイジューを倒すが、機体を大きく破損させられ、そのために兄は戦死します。そのトラウマのためローリーはロボットから降りていましたが、彼のことを心配する上司によって、新しいパートナーであるマコと共に再びロボットで闘うことになりますが…・
まずカイジューとロボットの圧倒的な存在感が魅せる物語です。上記に書いたように、監督の日本の特撮愛とロボットアニメ愛が炸裂しており、怪獣を「モンスター」ではなく、「カイジュー(KAIJU)」と表記していることにも伺えます。
なによりもカイジューとロボットの凄まじい肉弾戦が楽しめますが、同時に主人公のトラウマ回復の物語であり、また融通のきかない権力者の問題も描いており、ヒーローものの王道を行く内容です。マコを演じる菊地凛子(1981~)の存在感が見逃せませんが、登場シーンは少ないのですが、マコの幼年時代を演じた芦田愛菜(2004~)の迫真の演技にも心を打たれます。
最後の決着のつけ方がアメリカ的で、若干日本人には受け入れにくいところもありますが、それも裏返しの「日本愛」と言えなくもありません。この作品は好評を持って迎えられ、「パシフィック・リム:アップライジング」(2018)という続編も作られました(筆者は未見)。とにかく家族そろって安心して観られる作品で、特に特撮やロボットアニメ好きには必見です。


「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017)
【画像引用 ワッチャ】

「ナイトメア・アリー」(2021)


「ナイトメア・アリー」
【画像引用 日刊サイゾー】
「ナイトメア・アリー」は2021年制作のアメリカ映画です。
物語はホームレス生活を続けている主人公のスタンが、とある見世物小屋にたどり着いたところから始まります。見世物小屋では獣人、電気人間、透視術といった怪しげな催しを行っていました。あることからスタンはここで働くことになるのですが、そこで透視術を行う男女のペアと親しくなります。スタンはその方法を学び、電気人間の女性と小屋を出て、社交界でこの透視術を使って成り上がっていくのですが…。
ギレルモ監督には特撮・アニメ愛と並んでもうひとつの指向があります。それは異形(フリークス)愛です。「パンズ・ラビリンス」でもそうでしたが、「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017)に出てくるアマゾンの大半魚人などもそうです。
特に映画の前半部では見世物小屋の描写が秀逸で、あるシーンは明らかに「フリークス」(1932)のオマージュになっています。しかし後半舞台が見世物小屋から社交界に変わると、映画の雰囲気が大きく変わります。それは見世物小屋の猥雑で禍々しくはあるが、どこか懐かしさを感じる世界であったのに、社交界はそういった人間臭さを欠いた、冷徹で静的なバロック的世界です。しかし映画が進むに従って、この社交界も人間という怪物が跋扈する見世物小屋のような世界でした。
映画はスタンを慕う電気人間の女性と、あることから知り合った女性の精神科医の、入り組んだ三角関係が物語を引っ張っていきます。特にアンドロイド的な魅力を持った精神科医を演じるケイト・ブランシェット(1969~)の演技が、狂った華やかさを感じさせてくれます。
ここから先はネタバレになるので詳しくは書けませんが、物語はかなり悲劇的な結末を迎えます。しかしスタンを演じたブラッドーリー・クーパー(1975~)がインタビューで、「このラストはスタンにとってハッピーエンドではないか」と語っていて、筆者もそのことにうなずきました。「パンズ・ラビリンス」でも描かれた、どのように悲惨な状況にあっても、人は幸せも求めそれを得ることができるという、監督のポジティブな世界観の現われのように思います。


「スケアリーストーリーズ 怖い本」(2019)脚本及び制作
【画像引用 シネマズプラス】
最新作としてアニメ映画「ピノッキオ」(2022)の公開が予定されています。これからもこの監督の作品を観ていきたいと思います。

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local_offerevent_note 2022年4月26日
  • スピノザ

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