私の好きな現代音楽(3)

(1)のフランス編、(2)の日本編に続き、今回はアメリカ編です。
このシリーズも今回で3回目になりますが、今回も含めて取り上げた作曲家6人の内、1名を除きいずれも物故者です。(しかも残りのひとりも70代です)。「これのどこが現代音楽やねん!」という意見もあると思います。また男性に偏っているのでは? ということもあると思います。
もちろん若い20代30代の若い作曲家もいますし、女性に作曲家も数多くいています(次回で女性作曲家を取り上げる予定です)。若い人で興味を持った作曲家もいてるのですが、最初に現代音楽を聴いたのが中学時代で、その時に強く印象に残ったのが、今回取り上げた人たちです。最初に聴いた当時はみな若い作曲家だったのですが、40年も経つと亡くなった人が大半になってしまいました。

モートン・フェルドマン(1926~87)

【画像引用 MODE RECORDS】
ニューヨーク出身。後述するジョン・ケージ、アール・ブラウン(*1)、クリスチャン・ウォルフ(*2)などと共に「ニューヨーク楽派」の一人とされています。それまでアメリカの現代音楽は、独自の前衛音楽を作曲したチャールズ・アイヴズ(*3)を除けば、レナード・バーンスタイン(*4)のようなジャズ・ポップスとクラシックを融合させたような音楽か、エリオット・カーター(*5)のような、ヨーロッパの前衛音楽の流れをくむ人たちが主流でしたが、フェルドマンたちの存在により初めてアメリカ独自の現代音楽が切り開かれるようになりました。
フェルドマンも当初は伝統的な様式で作曲していましたが、ジョン・ケージとの出会いにより新しい音楽に目覚め、世界で初めて図形楽譜(*6)で作曲しました。
1970年代より、限られた音を使い、小さな音でゆったりと進む、無時間的な音楽を作るようになりました。それに伴い演奏時間の長い曲が多くなり、切れ目なしで7時間以上かかる曲も作られました。オーケストラ作品もありますが、どちらかというと小編成の曲が多いです。また日本のピアニスト高橋アキ(*7)が晩年のフェルドマンに多くの曲を委嘱していました。
また同時代の美術家との交流も積極的に行い、マーク・ロスコ(*8)に捧げられた「ロスコ・チャペル」(1971)はフェルドマンの代表作になっています。
1987年にすい臓がんで亡くなりました。最後に出演が予定されていた演奏会はその死によって出演できず、プログラムには「誰も、フェルドマンの代わりは出来ない」と書かれていたそうです。
私は1970年代の終わりに、フェルドマンのピアノ曲を生演奏で初めて聴きました。それまでにレコードやFM放送で聴いていたのですが、実際に聴いてみると音の繋がりがとても繊細で、5分程度の曲でしたが、とても新鮮な体験が出来ました。これに限らず生演奏で初めて魅力を感じることが多く、このことがあるので私は時間やお金が掛かっても演奏会に出掛けることに魅力を感じています。

記事でも取り上げた作品です。合唱は歌詞のないヴォカリーズ(*9)で歌われます。とても神秘的で宗教的な音楽です。

ジョン・ケージ(1912~92)

【画像引用 文春オンライン】
ロサンゼルス出身。作曲家と同時にきのこ研究家でもあります。現代音楽界だけでなく、芸術・思想界にまで影響を与えた作曲家です。
フェルドマンと同じく、最初期は伝統的な様式で作曲していましたが、第二次世界大戦のためオーストリアから亡命していた、ユダヤ人の作曲家アーノルド・シェーンベルク(*10)に師事したころから、新しい音楽を作るようになりました。ダンスのために作られた打楽器アンサンブルの音楽や、プリペアードピアノ(*11)のための音楽が初期の代表作です。
1945年に当時アメリカに滞在していた鈴木大拙(*12)の講義を受け禅思想を始めとする東洋思想に大きな影響を受けます。また1951年にハーバード大学で無響室(*13)体験し、この時完全に音を遮断しても自らの体内から響く鼓動音を聴き、沈黙をつくろうとしてもできないこと、自分が死ぬまで音は鳴り、死後も鳴りつづけるだろうと考えました。
この考え方がひとつの結実をみるのが、「4分33秒」(1952)という曲です。この曲が舞台上に現れた演奏家が、ピアノの前で4分33秒の間なにもアクションを起こさないという曲です。この曲は禅の影響を受け「無」を表したとの解釈もされましたが、作曲者自身は、演奏家が音を立てなくても、聴衆のざわめきやせき込む音、空調機の音などが、この場では「音楽」として鳴っていると訴えたかったようです。
その後は上記のフェルドマンが作った図形楽譜を使ったり、作曲の際に易経(*14)を使ったり、音階やリズムを指定せずに演奏家の創意で演奏される曲を作曲したりしました。これらは「偶然性の音楽」と呼ばれています。またコンピューターを使って作曲を行ったり、テープに音楽でない音を録音して作曲した作品も多く作りました。晩年は再び伝統的な記譜法に戻りましたが、曲自体は静謐で美しい曲が多いです。
作曲家の傍らアマチュアのきのこ研究家としても活動を行っていました。
東洋思想に興味を持ったころから、親日家になりたびたび来日していました。「竜安寺」という曲も書いています。1989年には日本の稲盛財団により京都賞・思想芸術部門(*15)を授けられています。京都賞受賞時に「絶対に正装はしない!シャツとジーンズで出る」と言い張り、関係者との間でトラブルになりました。このとき、「日本の伝統衣装、たとえば羽織袴なら」というスタッフのアドヴァイスに好意を抱き、羽織袴着用での受賞となったそうです。
私は1970年代の終わりに、ダンサーのマース・カニングハム(*16)、ピアニストのデヴィッド・テュードア(*17)と共に来日した際に京都で行われたダンスワークを観たことがあります。体育館で行われましたが、ケージはきのこの乾燥したものにコンタクトマイクをつけ、ひもでぶら下げたものを、鉄の棒のようなものでこすっていました。するとその音が拡大され、体育館中に響き渡るような音で「ゴリゴリ・ガリガリ」と鳴っていました。ダンサーはその音に寄りそうでもなく、自由に踊っていました。なかなかこれは得難い体験でした。また大音楽家という感じがなく、普段着のアメリカの田舎のおじさんという雰囲気で、終始楽しそうに「演奏」していました。
代表曲の「4分33秒」ですが、あまり「聴く」意味がないと思うので(笑)初期と後期から1曲づつ紹介します。

演奏時間70分余りの大曲です。プリペアードピアノ作品の集大成的な曲で、全体の曲想は東洋思想に基づいているとされています。とても美しい曲です。

コンピューターに易経をプログラムし、モーツァルトの曲と合成して作られた後期の代表作です。曲は説明するより聴いてもらった方が早いです。


【画像引用 アートポスターズ】
*1 アール・ブラウン
アール・ブラウン
*2 クリスチャン・ウォルフ
クリスチャン・ウォルフ
*3 チャールズ・アイヴズ
チャールズ・アイヴズ
*4 レナード・バーンスタイン
レナード・バーンスタイン
*5 エリオット・カーター
エリオット・カーター
*6 図形楽譜
五線譜を使わず図形や記号を使って作られた楽譜です。
素晴らしき図形楽譜の世界
*7 高橋アキ(1944~)
高橋アキ
*8 マーク・ロスコ(1903~70)
マーク・ロスコ
ロスコチャペル
*9 ヴォカリーズ
ヴォカリーズ
*10 アーノルド・シェーンベルク
アーノルド・シェーンベルグ
*11 プリペアードピアノ( prepared piano)
プリペアード・ピアノ
*12 鈴木大拙
鈴木大拙
*13 無響室
壁面の音響の反射を極限まで落とし、残響のない部屋に作られたものです。
*14 易経
易経
*15 京都賞・思想芸術部門
公益財団法人稲盛財団が創設した京都賞の部門です。(1)で紹介したクセナキスやブーレーズも受賞しています。
*16 マース・カニングハム
マース・カニングハム
*17 デヴィッド・テュードア
デイヴィッド・チュードア

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local_offerevent_note 2020年5月29日
  • スピノザ

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