私のベスト3映画(外国映画編)その2

ノスタルジア(Nostalghia)1983年

【画像引用 YouTube】
アンドレイ・タルコフスキー監督(*1)。イタリア・ソ連合作映画。
私は日本公開時の1989年に妻と一緒にこの映画を観に行きました。この年はちょうどソ連が崩壊した年で、監督のタルコフスキーは1984年に西ヨーロッパに亡命しており、そんな激動の時代にこの映画を観ました。この監督の作品はS・レム(*2)原作の「惑星ソラリス」(1972)を以前に観たことがあり、その特異な映像とJ・S・バッハのオルガン曲の響きが印象に残っており、寡作の監督の久しぶりの作品ということもあり、前評判も高く観に行くことにしました。
しかし当日は仕事で疲れていたこともあってか体調もあまり良くなく、映画自体もゆったりと流れる時間の中で少しづつ物語が展開していく内容に、映画の中盤で、妻共々熟睡状態になってしまいました。その眠気まなこで観た映像は、妙に印象に残っており、これは改めて観たいと思い、日を改めて観に行くことにしました。

【画像引用 早稲田松竹】
映画のストーリーを簡単に説明すると、自殺したある作曲家の生涯を調べるためにイタリアのトスカーナを、主人公の男性は愛人の女性と共に旅を続けていました。そこで主人公は預言者の男に出会い、この世界の終末が近いことを告げられ、それを回避するための「方法」を伝授されます。次第に主人公の行動についていけなくなった愛人は彼の元を離れますが、主人公は旅を続けます。主人公は心臓病のため自分の命がそう長くないことを悟り、伝授された方法を行うため、温泉街に向かいその「方法」を試します。
ストーリーの概略は以上のような内容ですが、この映画を観て感じるのは、ストーリーを凌駕する圧倒的な映像美です。映画の巻頭、霧の中に浮かび上がるロシアの風景と、そこに佇むルネサンスの絵画から出てきたような美しい女性。霧の中をゆっくりと横切る車の姿。トスカーナの教会で行われたイコンの礼拝の様子。聖母子像の台座を開けると飛び出す無数の小鳥たち。燃え盛る炎と対照的な水のさざめき。映画世界を一言で表現する「1+1=1」という言葉の絶対的な自己同一感。そして最後に行われる「方法」の緊迫感。

【画像引用 ツイッター】
1回目に観たときは気づかなかった、様々なデティールが私の心に入り込んできました。恐ろしく閉塞的な感覚でありながら、一方で天上的な解放感を感じさせ、信仰を持たない私に宗教的な感情を呼び起こす内容でした。私はこの映画に瞬時にして心を捉えられ、自身のベスト映画の一つになりました。それ以降のこの監督の映画を、ビデオやDVDで観ました。しかしTVの小さな画面では感動は望むべくもなく、また他の作品も観ましたが、繰り返される映像美に感嘆はしましたが、「ノスタルジア」を超えるものはありませんでした。
その後、監督が亡くなり新作が作られることが無くなったため、あまり観ることはなくなりました、しかし最近BS放送でこの映画が上映される機会があり、録画して改めて観ました。確かに映画のスクリーンで観る感動こそありませんでしたが、映像美は私の心をひきつけ、最初に観た妻とのことも思い出し感慨にふけりました。ノスタルジーとは過去への思い出に身を焦がすことであると同時に、それに囚われてしまう「病」のようなものでもあり、その両義的な存在が私をこの映画に引き付けられる理由なのかもしれません。
一般的に言えば観やすい映画ではないといえます。しかし先入観を排してみれば、心が癒される映画だと思います。DVDでも構わないとは思いますが、出来れば劇場で観てほしい映画です。


【画像引用 早稲田松竹】
*1 アンドレイ・タルコフスキー
アンドレイ・タルコフスキー
*2 スタニスワフ・レム
スタニスワ・レム

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local_offerevent_note 2020年6月23日
  • スピノザ

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