福祉系マンガの世界(1)

福祉系マンガとは?

と言っても私が勝手に考えた言葉ですが(笑)。マンガの題材として福祉を選んでいるものと考えてもらって良いと思います。この話を聞くと多くの人は障害者を主人公にした、実録感動ものをイメージする人が多いと思います。しかし今回の記事では「感動系」より、読むといろいろな知識が入ってくる「情報系」の作品を中心に紹介したいと思います。2回に渡って4つの作品を紹介します。

「ツレがうつになりまして。」細川貂々(2006)

【画像引用 amebaマンガ】
この作品は作者の細川貂々(1969~)の実体験に基づくエッセイマンガです。作者の夫であるツレさん(本名望月昭)が突然うつ病を発症し、その後の長きにわたる闘病の物語です。
作者は少女マンガ家でしたがあまり売れなく、夫との共働きで生活していました。しかしある朝突然「死にたい」と夫が言ったため、病院に連れていくと「うつ病」と診断されたそうです。作者は精神障害に対する知識は皆無で、医者とも相談しながら、かなり自己流で対応していましたが、後にこの自己流の対応の仕方が、医師より大筋では間違っていなかったと言われたそうです。そのためこのマンガはそのまま家族や患者がどう対応すれば良いかのマニュアルにもなっています。
会社をすぐに退職したため、家庭の経済を作者が一手に引き受けるようになりました。しかし元々売れないマンガ家のため生活に困窮し、それならとこの体験をマンガにしようと思い立ち「ツレうつ」を描いたそうです。しかしあちこちの出版社に持ち込みましたが「暗い」「読んでいて辛い」と言われ、断られ続けたそうです。しかしある出版社が出版を承諾し。発売されることになりました。最初のうちはなかなか売れなかったのですが、ネットの口コミなどで評判になり、最終的に75万部のベストセラーになりました。
作者はもともとネガティブな性格で、夫がポジティブな性格だったそうですが、夫の発症により、自分もネガティブのままでは、夫婦で共倒れになってしまうと思い、積極的に人生を切り開こうと思ったそうです。そのためこのマンガはうつ病の闘病記と同時に、作者の成長物語にもなっています。そのことがいろいろな人に共感を生んだのだと思います。全体的にヘタウマ(*1)系の画で、ギャグがちりばめられており、闘病記にも関わらず、あまり深刻さがなく、そのことがこのマンガが売れた最大の理由だと思います。
作者はこの作品の後、うつ病に関するものだけでなく、高齢で出産した子供の育児の話、飼っていたイグアナの話、趣味で好きな小物づくりや宝塚鑑賞の話、などを描き、人気作家になりました。作品は2009年にドラマ化(藤原紀香、原田泰造)、2011年に映画化され(宮崎あおい、堺雅人)ました。作者のいずれの作品でも美人の俳優が自分の役で演技をしたため、すごく申し訳ないと思ったそうです。
私自身もこのマンガにはいろいろと教えられ励まされました。作者をその後医師と共に精神医療の新しい情報を積極的に紹介しています。いま自身や家族のうつ病で悩んでいる方にはお勧めのマンガです。

細川貂々夫妻
【画像引用 CANPANブログ】

「ヤンキー君と白杖ガール」うおやま(2019~22)全8巻

【画像引用 コミックウォーカー】
次に紹介するのは「ヤンキー君と白杖ガール」です。ヤンキーの男子高校生と、盲学校高等部在籍の視覚障害の女子のボーイミーツガールもの、いわゆる「ラブコメ」です。作者のうおやま(生年月日不明、女性)の父親が視覚障害者で、介護の体験もありそれがこのマンガを描く原点になっているそうです。元々はネット配信のマンガで、好評で単行本として出版されたそうです(最近はこういったマンガが結構あります)。
ストーリーは、喧嘩は強いが街の嫌われ者のヤンキー君と、お嬢様さま育ちの視覚障害者がたまたま街で出会って恋に落ちる話です。ヤンキー君は強面の印象とは裏腹に、女性とどう接していいか判らず、直情的に突っ走ってしまいます。女子はお嬢様育ちもあって少し「天然」が入った性格です。ここまでなら王道のラブコメですが、女子がお嬢様育ちになったのは、親が苦労を掛けたくなくて、あまり無理をさせなかったことから来ています。また女子のお姉さんはいわゆる「きょうだい児」(*2)の鬱屈した感情を抱えています。ヤンキー君も家族関係に恵まれず、不良仲間同士で互いに慰め合う関係を持っています。
私が特に注目したのは、ヤンキー君のライバル(男性)が彼に恋心を抱いていることの複雑な感情の描写や、ヤンキー君の不良仲間の女子が、障害者だから同情で気持ちをヤンキー君が持ってしまったことを「ずるい」という場面などで、作者の人に対する繊細な捉え方に少し感動しました。
物語はそういったエピソードを紹介しながら、障害者教育の実態、バリアフリーをめぐる問題、介助のタイミング、高齢者の問題、などを具体的に描いており、話としては結構「泣かせる」作品なのですが、それをあまり前面に出さず、あくあでギャグマンガとして描いています。
この作品は普通に恋愛マンガとしても読めるので、いろいろな人に読んでほしいマンガです。

【画像引用 メディキャッチ】
*1 ヘタウマ
ヘタウマ
*2 きょうだい児
きょうだい児

ブログランキング・にほんブログ村へ
local_offerevent_note 2020年10月30日
  • スピノザ

    フィットボクシングでダイエットしてます