福祉系マンガの世界(2)

「透明なゆりかご 」沖田×華(2014~21)全9巻

【画像引用 マンガナイト】
このマンガは沖田×華(1979~)によって描かれた作品です。作者の実際の体験を基に描かれています。沖田×華は発達障害者です(バイセクシュアルであることも公言しています)。そのためか子供時代は同級生からはいじめを受け、教師から体罰を受けたそうです。看護師を仕事にしましたが、人間関係がうまくいかず、自殺を図ったこともあったそうです。その後風俗関係の仕事につきますが、仕事中に待合室で読んだ桜井トシフミ(1964~)のマンガに衝撃を受け、漫画家に転身しました。(桜井トシフミとは後に結婚しました)。
作品の多くは発達障害ゆえの生き辛さを書いたものが多く、それをギャグマンガとして描くことで、深刻な内容が優しく読める作品になっています。しかし親族間や友人のことも含めて赤裸々に描いたため、家族や友人と絶縁状態になったこともあるそうです。
この作品は別の作品で看護師時代のエピソードを描こうとしたら、それを単独の作品として描いた方が良いのではないかと思い、連載を始めました。作品のリアルな内容が話題を呼び、結果的に作者の最大のベストセラー作品になりました。
作品を描いた動機として、出産・妊娠を描いた作品に「色々な困難があったけれど、産んだら皆幸せ」という結末となるものが多いことに長く違和感を感じていたことがあったそうです。
作品は実際の体験を基に1話1エピソードで描かれています。筆者が印象に残っている作品を挙げると、14歳で妊娠し、男性からは逃げられるエピソードで、ありがちな感動話にせず、両親との関係性や、子供が大きくなってからのエピソードを描いて、現実の厳しさと優しさを描いた「14歳の妊娠」、親族からの性虐待を通して家族の再生を描いた「透明な子」、外国人のような顔の子が生まれ、不倫のあらぬ疑いをかけられた経産婦が、あることから真相がわかる、この作品には珍しい爆笑エピソードの「この子誰の子」などが挙げられます。
この作品は2018年にドラマ化されました(筆者は先にこのドラマから観ました)。ドラマは原作のエピソード踏まえつつ、フィクション仕立てにし、登場人物の内面をより踏み込んでいました。このドラマは大きな反響を呼び、いくつもの賞を受賞しました。また主役を務めた清原果耶(2002~)の演技は高く評され、一躍人気俳優になりました。撮影を見学した作者はその美しさに打たれつつ、発達障害の演技が秀逸で、そこに自分がいると思わせる演技だったそうです。
発達障害を持つ筆者にとって、この作品はとても共感のできるものでしたが、冷徹なまでに現実を描きながら、常に救いを与える内容に、ドラマともども度々涙が溢れました。
障害を持つ人、子供を授かった人、これから子供を持とうと思う人、男女問わずいろいろな人に観てもらいたい(ドラマも含めて)作品です。

主演の清原果那
【画像引用 nep】

「健康で文化的な最低限度の生活」柏木はる子(2014~連載中、現在10巻まで刊行)

【画像引用 マンガナイト】
このマンガは柏木ハルコ(1969~)によって描かれた作品です。これまで恋愛マンガを中心に描いていましたが、新境地を開拓するために初めて社会的問題を取り上げた作品でした。作者自身はもともとどちらかというと自己責任論(*1)者で、生活保護受給者にあまり良い感情を持っていませんでしたが、調べていくうちに一筋縄ではいかない問題だと気付き、この作品に取り組んだそうです。
ストーリーは、新任の女性公務員が、福祉事務所生活課の生活保護担当に配属されますが、当初は福祉に対する知識がなく、希望部署でもなかったため、渋々仕事をしていましたが、もともと真面目な性格だったため、多くの受給者と接していく中で、仕事に目覚め職業人として成長していく、という物語です。
ビッグコミックスピリッツというマンガ雑誌のなかでは、取り上げられることの多い「仕事成長型まんが」で、画風もその傾向が強いのですが、生活保護というこれまであまり取り上げられることのなかった内容が注目を浴び、ヒット作品となりました。また様々な賞を受賞しました。作品は福祉研修などで教材として使われることもあるそうです。
各エピソードは取材して得た実際の事柄を基に、フィクションにしたものです。
取りあげられたテーマは、識字障害(ディスレクシア)(*2)を隠しているため、やる気がないと思われてしまい生活保護に頼らざるを得なかった男性、毒親(*3)の元で育ったため精神障害を発症している青年、アルコール依存症から脱せない男性、など、筆者も福祉の仕事をしていたので思い当たる内容が、多かったのですがその中でも親に苦労をかけたくなくて、隠れてアルバイトをしていた息子の収入が申告漏れになり「不正受給」と見なされるケースは、実際の話を基にしているだけに、役所の硬直性に読んでいて憤りさえ感じました。
またキャラクターも主人公を含め違うタイプのワーカーを描いており、特に法律順守と財政面に厳しいが、受給者のことを誰よりも考えている係長と、過去につらい経験をしているが、それを表には出さない先輩ケースワーカーが、「あ、こんな人いるなあ」と思わせる描写が秀逸でした。
このマンガは2018年に吉岡里帆(1993~)の主演でドラマ化もされました(筆者はドラマを先に観ました)。
視聴率的にはあまり振るわなかったそうですが(関東より関西の方が高かったそうです)、放送終了後ネットを中心に評判を呼び、高い評価を受けるようになりました。
物語としての面白さはもちろん、あまり知られることのない生活保護の実態を知ることができ、教科書的な硬さがない分、福祉を知るための最適の資料といえると思います。
一度手に取ってみられることをお勧めします

【画像引用 Google】

マンガだからこそ

2回に渡って4つの作品を紹介しましたが、いずれの作品も事実を基にしているので、作品として楽しめると同時に、社会の教科書としてもつかえる内容です。福祉の知識は実際に体験することが最良ですが、なかなか接することのない分野に関しては、難しい専門書を読むより、こういったマンガ作品の方が入り口としては最適です。そしてこういったマンガをとっかかりに、福祉に興味を持ったり、ボランティアや職業に選ぶこともある思います。
これ以外にも福祉系マンガはありますが、それはまた機会を改めて紹介していきたいと思います。
*1 自己責任論
自己責任論
*2 識字障害(ディスレクシア)
識字障害(ディスレクシア)
*3 毒親
毒親

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local_offerevent_note 2020年10月30日
  • スピノザ

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