私の妻が残した記録 震災編(2)

AFTER  EARTHQUAKE

今、テレビが映し出しているものは、主人が大好きな三ノ宮だが、廃墟同然の繁華街にあぜんとした。2人とも言葉がなく、ただ見つめ続けた。倒れている高速、燃えている街。震源地は淡路島じゃないのか?どうして三ノ宮があんなにひどいの?でも悲しくない、なぜか楽しいのだ。信じられないって言いながら、気分が高まっていくのがわかる(*大きな災害の後、当事者が高揚感を感じることは、珍しい事ではありません。特に妻のケースでは、比較的被害が少ない地域でもあり、映像情報に頼らざるをえなかったため、マスメディアの多少煽情的な報道に突き動かされ、感情的になった面があると思います。このような精神的現象は「災害ユートピア」と呼ばれています(下記参照))。
「あ~あ、こんなにみごとに壊れたら、気分いいね」なんて言いながら仕事をしている。その時はまだ何千人もの人がなくなったなんて知らないから、これぐらいで済んで良かった、って言える余裕があった。
「おなかすいたね、おにぎり作ろうか」って、何も考えずに作って、水を出していた。そこでハッと気づく。水が出なくなるかもしれない。ここはマンション、タンクに水がある限り出る。主人にすぐお風呂を洗って、水を溜めてもらうように頼んだ。しばらくして見に行くと洗ってない。考えることが多すぎて忘れたらしい、その時すでに水の出はチョロチョロだった。すぐに水を張り始めたが、1/10くらいで止まってしまった。
すぐ近くのサティ(現イオン)から、ふだんは聞こえないゴーっとすごい音がしている。今日は定休日だ、中で何が起こっているのだろうか。火事?でも煙は見えない。サティは大丈夫なんだろうか?不安がよぎる。寒いが逃げ道を確保するために窓を全開にする。ドアも開けっ放し。
主人が職場(身障者の入居施設)へ行く、職場には自分で動けずに、不安と恐怖でおびえている人がいる。絶対安全だとは言えないが、あの地震で大丈夫だったのだから、余震が来ても安全だと言いきかせて、主人を必要としているところ行ってもらわなければ。すぐ近くにいて、ましてやこんな非常時に行かないというのは、許されないことのように思えた(筆者注:正直この時は私自身もかなりの葛藤がありました)。娘2人は状況を理解していないが、いつもとは全く違うので、よく言うことを聞いていて六畳間の布団を敷きつめた部屋でおとなしく本を読んでいる。

朝の10時ごろだったろうか、福島にいらっしゃる、主人がお世話になった元高校の先生が、何回も電話をかけていて、やっとつながったと心配して電話を下さった(筆者注:東日本大震災の時に逆の立場になりました)。電話中大きな余震が来て、思わず「今来てます、大きいのが来てます」と、テーブルをしがみつき中腰で立ちながら叫んでいた。受話器を握りしめこどものいる方をのぞき込むと、どこ吹く風で静かに本を読んでいる。騒いでるのは大人だけかな?
主人が仕事に行ったことを告げると、少し驚かれた様子だったが、「充分注意してください」と言われ、「こちら(福島)は地震が多いので、高いところに何も置かないようにして、お風呂に水を入れている」と、奥様に電話を代わっていただいて、アドバイスを頂いた。直後の電話でもあり、「山田君」と覚えていて下さって、わざわざ何回もかけ続けて下さったことが、心底嬉しくて、不安な気持ちが少し和らぎました。
地震直後から掛かりにくくなっているのにもかかわらず、あちこちからお見舞いの電話が掛かってきて、なんていうか、ひとりじゃないんだ、みんな私達のことを心配してくれている。そのことがすごくうれしくて、心細い思いの中ひとりひとりの電話が私達夫婦の支えになりました。

グチャグチャになった部屋をひとつひとつ片付けながら、この先の生活の不安が、頭の中を占めてゆくんです。お風呂に入れた少しと、バケツ2杯の水でいつまで持つのか?主人から電話が入り、ローソンと近くのスーパーが開いているとのこと。水と食料を頼む。遅れるけど少し帰れそうだという。やっぱり心強い。なんとかひとりで部屋を片付け、はだしで歩けるようになったところへ、主人が少しだけ家にいてくれると帰ってきた。何日か前に私が作りすぎて冷凍していた焼き飯と焼きそば、それを2回に分けてみんなで食べた。
几帳面な主人に比べて、私はかなりいい加減。でも今回はそれが幸いして、食器洗いかごに、昨夜洗ったまま置いていた食器が無事だった。食料もまる1日助かった。無理に口に押し込めるような食事。食べないでいても、体は疲れを知らずもくもくと動く。
その日は1日中テレビをつけっぱなし。着替えをせず子供を寝かせようと、部屋の灯を消しテレビを消すと、シーンと静まり返り、あの恐怖がよみがえってきた。ダメだ。これからは灯をつけたまま寝ようということになった。子供が寝た後も、ずいぶん遅くまで起きていたが、なかなか眠れない。でも今少しでも寝ておかないと、明日が辛いからと横になった。がなにげなく頭の手をやると痛い。左の頭にこぶがある。そうか、上の娘をかばった時、背の低い子供用タンスの上に、ガラス板を外した木製のCDラックが置いてあったので、揺れたときにまずCDがバラバラと落ちてきて、その後ラック自体が落ちてきて、頭に当たっていたのだ。20時間経っているのに、今までまったく気づかなかった。そういえば、あれだけ痛かった腰痛も消えていた。多分今の私にはそんな痛みなど必要ないんだろう。痛みも感じないなんて、なんて異常なんだろうね。


災害ユートピア

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local_offerevent_note 2022年3月25日
  • スピノザ

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