特撮三昧(2)

大怪獣のあとしまつ(2022)

【画像引用 AMEBA】
今回の記事は2022年に公開された日本の特撮映画3作を紹介するものです。極力ネタバレのない範囲で紹介したいと思います。すでに公開の終わっているものもあるため、興味のある方は配信等で観てもらえたらと思います。
最初に紹介するのは「大怪獣のあとしまつ」です。
日本に突然現れた大怪獣は、突然の異変によって退治されます。しかし残った怪獣の死骸は次第に腐敗が進み、このままでは内部に溜まった腐敗ガスが爆発し、大規模な環境災害の発生が懸念されました。しかし一方で近年日本経済の低下が懸念される中で、怪獣の死骸を観光資源として活用したい政治家の考えが状況を混乱させ、また諸大国の思惑もありさらに混沌としてきました。その中で怪獣処理の全権を委任された「特務隊」の活動が始まるのですが…。
監督の三木聡(1961~)はコメディ作品の得意な人で、シティボーイズ(1979~)のコント作品の台本を書いていたこともありました。特撮はこれまで数々の作品を作ってきたスタッフによって作られ、なかなか本格的な仕上がりでした。出演は山田涼介(1993~)、土屋太鳳(1995~)、濱田岳(1988~)、眞島秀和(1976~)、オダギリジョー(1976~)といった演技陣です。
タイトルからも見当がつくように、怪獣のあとしまつという、特撮ファンなら一度は思った事柄を描いたコメディ映画です。全編スベリ倒しのギャグや、下ネタといっても排泄系の小学生レベルのものがてんこ盛りです。しかし一方怪獣の処理方法はかなり具体的でよく考えられているのですが、常に大きな「穴」(これも怪獣映画ではお約束)があるため結局ことごとく失敗します。最後に「あること」によって事態が解決するのですが、それがとても下らないオチになっています。
筆者はとても満足して観ました。おそらくコアな特撮ファンや、B級映画好きにはたまらない内容でした。ただ2度とは作れない映画です(笑)
しかし問題はその後に起こりました。ネットでの評価は酷評の嵐で、そのためか興行成績もあまり伸びませんでした。酷評の理由は特に以下の2点が大きく取り上げられました。

・「シン・ゴジラ」のような本格的な特撮映画を期待した特撮ファンが、肩透かしを食わされたと
思った。
・ギャグや下ネタのレベルが低すぎる。

筆者がこれらの感想を観てこう思いました。

いや、これはそういう映画でしょ!

「本格的な特撮映画」を観たかったっていうけど、タイトルから「本格的な馬鹿映画」って判るでしょ。それは「本当の特撮ファン」なら気が付くでしょう。判らない時点でその人たちは「偽の特撮ファン」でしょ。
(筆者は「シン・ゴジラ」もある意味パロディ映画だ思っているのですが…)
ギャグがダダスベリ?ギャグが下品?だからそういう映画なんだって!
ジミー大西(1964~)、村上ショージ(1955~)、上島竜平(1961~2022)(この場を借りてご冥福をお祈りいたします)といった人たちを見たら判るでしょ。スベッたり、下品なのが良いんだって。
ここであえて言いますが、日本の自称映画ファンや自称評論家は、かーなりレベルが低い!。馬鹿な映画と言ってるのに、馬鹿な映画と批判する。一方で内容がスカスカでも、障害者が出てきたり(しかも障害者自身が演技しているケースが少ない)、表層的に社会問題を取り上げたりするだけで「力作」とうたわれたりしています。こういった馬鹿映画を馬鹿映画として楽しく評価できない一方で、社会問題をきちんと描いた「真面目」な作品が冷遇されるということは、ある意味表裏一体の関係だと筆者は思います。そしてこのことが是枝裕和(1962~)監督に、カンヌ映画祭で「今の日本映画界はこのままいくと手遅れになる」と言わせたのだと思います。
「世間の声」などに踊らされず、自分の目で確かめてほしいと思います。
【画像引用 トレンドスマップ】

ホリック xxxHOLiC(2022)

【画像引用 AMEBA】
特撮映画というと、どうしても怪獣モノや、ヒーローものを連想しがちですが、それだけが特撮ではありません。この映画はマンガ家集団CLANP(1989~)のマンガ原作による作品です。過去にもアニメ化(2006、2008)やドラマ化(2013)されましたが、劇場版は今回が初めてです。
主人公の四月一日君尋(わたぬき きみひろ)は、霊や妖怪などのアヤカシが見える能力を持っています。しかしそのアヤカシたちを追い払う力はありません。襲い掛かるアヤカシから逃れようとした四月一日は、とある占い屋敷に遭遇します。そこには壱原侑子(いちはら ゆうこ)という謎の女性がいました。彼女は訪問者の願いをかなえる際に、必ず「同等の対価」をもらうという契約をする人でした。四月一日はこの状況から逃れたい一心で契約を結びます。しかし彼には女郎蜘蛛とアカグモというアヤカシが近づいてきて魂を奪おうとします。四月一日は侑子の力を借りて、友人の百目鬼静(どうめき しずか)や九軒ひまわり(くのぎ ひまわり)と共に、女郎蜘蛛たちと闘うのですが…。
監督は蜷川実花(1972~)、主な出演者は神木隆之介(1993~)、柴咲コウ(1981~)松村北斗(1995~)、玉城ティナ(1997~)、吉岡里帆(1993~)、磯村優斗(1992~)などです。
写真家でもある蜷川作品ということで、その映像美には堪能されます。特に蜷川の好きな「華」が非常に効果的に映像美を作り出しています。また柴咲コウの妖艶な魅力、神木隆之介の弱気ではあるが、次第に自分の能力に目覚める様子、玉城ティナの可憐さ、そして松村北斗の固い友情を通り越している(!)感じが、原作のお約束を踏まえて描かれています。特撮シーンはかなりよく出来ており、グロテスクでありながら美しいという、映像が堪能できます。「ある一点」を覗いて満足して観られました。
しかしこの作品もあまり高い評価は得られなかったようです。特に多かった意見が「原作をキチンと踏まえていない」でした。これは熱狂的な原作ファンが多いマンガ作品の映像化の際に常に言われていることです。批判者の気持ちは判らないでもないのですが、筆者は「映像化された作品にとって原作はあくまで「素材」で、別のものと考えて観た方が良い」と考えます。特に筆者は原作を詳しく知らないのでよりそう思って観られました。
そしてこの点が先ほど述べた「ある一点」に繋がります。それはこの映画が「原作なり他の映像化作品を観ていないと、作品に入りにくい」という面があることです。
筆者は映像作品は原作を全く知らなくても、観られるように作るべきだと思っています。その点でいくとこの作品は原作の内容を知っている前提で作られている面が強いように思います。原作ファンにしたらその方が良いのでしょうが、それは限られた原作ファンにおもねるもので、独立した映像作品を作る姿勢として(ビジネス含めて)はどうかと思うのです。時に原作者やファンを裏切って作られた作品が「名画」として残っているケースがたくさんあります。むしろそういった作品が映画史を作ってきたと言っても過言ではありません。
しかし、その一点をのぞけば、なかなかよく出来ていると映画だと思います。一度ご賞味あらんことを。

【画像引用 映画ログプロス】

シン・ウルトラマン(2022)

【画像引用 個人ブログ】
最後に紹介するのは「シン・ウルトラマン」です。この作品はTVドラマ「ウルトラマン」(1966~7)リスペクト作品です。
現代の日本において、たびたび禍威獣(かいじゅう)が現れ、国民の生命や経済活動を危険にさらしています。そのため国は禍威獣特設対策室(略称:禍特対)を設置します。その禍威獣との闘いのさなか、突然空から銀色の巨人が現れて禍威獣を倒します。禍特対は巨人を「ウルトラマン」と名付けるのですが…。
監督は「平成ガメラ三部作」(1995~9)の特撮監督を務めた樋口真嗣(1965~)、企画・脚本は庵野秀明(1960~)です。「シン・ゴジラ」(2016)、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(2021)に続く「シン・シリーズ」(筆者が勝手に考えたもので、正式な名称ではありません)の1作で、この後「シン・仮面ライダー」(2023公開予定)が控えています。
出演者は斎藤工(1981~)長澤まさみ(1987~)有岡大樹(1991~)早見あかり(1995~)山本耕史(1976~)西島秀俊(1971~)といった演技陣です。また「シン・ゴジラ」や「大怪獣のあとしまつ」の出演者が、同じような役柄で出ているのが少々笑えました。
作品に対する評価は様々ですが、興行収入の高さが高評価を物語っています。
筆者の感想はというと

とにかく笑いました!

この観方は一般的ではなかったのですが、ネットでいくつか同じような意見を散見し、我が意を得たりと思いました。そしてこのおかしさはおそらく筆者の年代(1959生)でリアルタイムで「ウルトラマン」を観た人に顕著でなかったかと思います。
最初に「ウルトラQ」(1966)の禍威獣の出現から始まり、有名な怪獣の出現が続き、原作でも人気のあったザラブ星人やメフィラス星人が出てきて、原作のエピソードをリスペクトして、最後はゼットンの登場で物語絵を締めくくるという王道展開でした。また当時の効果音をそのまま使ったり、光線をアナログっぽい色合いにしたり、戦闘シーンをトレースしたりと、原作を知っている者にはたまらない展開でした。その中でも某女性隊員の巨大化には唖然として、同時に笑わされました。
筆者にとっては大満足の内容でしたが、「ホリック xxxHOLiC」で感じた疑問点をここでも感じました。「これ若い人や知らない人が観て面白いのかなあ?」しかし筆者の疑問は杞憂だったようで、興行収入の高さがそれを物語っています。「ホリック xxxHOLiC」は知る人ぞ知るの作品であるのに対して、「ウルトラマン」はかなりメジャーな作品であることと、ネットや配信の情報でリアルタイムで観ていなくても、かなり細部までの情報が手に入るという、現代ならでは要素が大きかったのだと思います。
とにかく面白い作品なので、観ることをお勧めします。

【画像引用 デイリー】

最後にひとつ
今回の3作品はいずれもリスペクト要素の多いもので、タイプの似ている映画だと思います。
しかし評価のされ方が様々で、筆者にもその違いがどこにでてくるのかよく判りません。
ただこういう理屈は置いておいて、観る人は映像をひたすら楽しんだらよいと思います。

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local_offerevent_note 2022年5月31日
  • スピノザ

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