ネット右翼とシニア世代

はじめに

ネット右翼の信奉者が多い安倍晋三元首相(1953~2022)
【画像引用 YouTube】
この記事はいわゆる「ネット右翼」とそれに係る世代問題についての考察です。
一般にネット右翼と言われる存在は、一般的な右翼団体と違い実際的な活動はあまり行わず、ネット上での書き込みを主な活動としています。また右翼団体が自分の存在や姓名を明らかにしているのに対して、概ね匿名による活動が一般的です。ネット右翼という名称は批判的な文脈(略称の「ネトウヨ」では特に)で使われることが多いためか、自らネット右翼と名乗ることはあまりありません。
右翼団体の多くが過去の保守思想家から多くを学んでいるのに対して、ネット右翼の情報源はネットやYouTubeからのものが多く、マスコミで名前を賑わすようなジャーナリスティックな存在に依拠しています。そのためかあまり読書で知識は得ようとしないようです。また亡くなった安倍晋三元首相の信奉者が多いことも特徴的です。
ネット右翼の最大の特徴は、彼らが「反日」とみなす存在に対して、一方的な批判を行うことです(冷静は発言を行うタイプの方もいますが)。彼らの批判の対象は彼らが左翼的な存在とみなす国家や団体(中国、北朝鮮、ロシア、立憲民主党、日本共産党、日教組、部落解放同盟、朝鮮学校、障害者支援運動、沖縄の反基地闘争など)です。またLGBT支援団体、夫婦別姓運動、女系天皇容認派、性教育推進派、などを日本の伝統的な家族形態を破壊するものとして批判的に見ています。
批判する対象に対して「反日」「パヨク(左翼の別称後)」などの言葉を紋切り型のように使います。また差別用語を多用するのも特徴的です。自説が反論されるとかなり感情的な再反論を行い、罵詈雑言に終始することも少なくありません。

ネット右翼の実像

ネット右翼の信奉者が多い櫻井よしこ(1945~)さん
【画像引用 文芸春秋】
では一体どういう人たちがネット右翼なのでしょう?匿名の存在であったため、これまでその実像がなかなか明らかになっていなかったのですが、アカウントの分析によりその実態が明らかになるようになりました。
これまでネット右翼を構成するのは、若年で非正規雇用者を中心とした層が、格差によって生じるうっぷんを、権力側ではなく弱者に対して行う、といったイメージが一般的でした。世代的には「ロスジェネ世代」から「Z世代」に至る世代がその対象になります。また近年、回転ずしや牛丼屋などで、不衛生な行為を行ってそれを動画配信する行動などと、同じ文脈で存在するものとも思われていました。
しかし実際の調査から明らかになったのは、ネット右翼を構成するのは、一般的にシニア世代とされる、50代以上の男性が中心でした(女性もいますが割合は少なめです)。上は後期高齢者とされる80~90代にまで及んでいましたが、一方40代以下の世代は少なく、20代に関してほぼ皆無でした。また一般企業の中間管理職や、中小の商店や事業者の代表といった人が多くを占めています。また収入的には比較的安定しており、そのためか若年層と違い、経済の動向にはあまり興味を持ちません。
ネット右翼を構成する層は伝統的な紙媒体の購読も多く、産経新聞、「正論」「HANDDA」「諸君」「WILL」といった右翼系新聞・雑誌の有力な購読者になっています。また配信系の番組やYouTubeの聴視者が多いのも特徴的です。それらの媒体に熱心に投書したり、メールを送ることが多いのも特徴です。しかし書籍に関しては、保守系のものでも読むことは少なく、自分の好きなコメンテーターの書籍を購入していますが、あまり読まずにいわゆる「積ん読」状態になっていることが多いようです(この辺りの感覚はシニア世代のヲタクにも共通する特性です)。
また子どものころからネットに親しんできた若年層と違い、シニア世代のためかネットに関する知識があまり高くなく、匿名で発信しても、現在では特定はそれほど難しくないという知識がないため、ヘイト発言で訴えられ、慌てふためくというケースが多く見られます。またネットリテラシーが低いのも特徴的です。

なぜシニアはネット右翼になったのか

ネット右翼の信奉者が多い三浦瑠麗(1980~)さん
今はそれどころじゃないみたいですが………
【画像引用 住友生命】
今回の記事を書くにあたって、いくつかの書籍を記事を参考にしました。その中で最も参考になったのが「シニア右翼」古谷経衡(中公新書ラクレ)です。著者の古谷さんは1982年生れの評論家で、元々著者自身がネット右翼だったのですが、実際の活動を行う中で疑問を感じ、次第に批判的な論考を行うようになった末に書かれた本です。
この本は客観的なデータに基づいて様々な批判を行っていますが、類書との大きな違いは著者自身がネット右翼であったことから、内部から見た実情が論拠の基になっていることです。この内容は一般の社会人や学生がふつう関わることはまずない世界です。
筆者は「戦争論」(*1)や「架空戦記物」(*2)の影響を受けて右翼思想に傾いていきました。2010年に保守論壇に関わるようになりました。古谷さんの実際に関わるまで、三島由紀夫と盾の会のような、青年層の壮士のような人たちをイメージしていたそうですが、実際にいたのは50代以上のシニア世代でした。上記のように商店主や中間管理職が多く、多くはすでに退職し年金でそれなりの生活を送っている男性ばかりでした。端的に言うと「暇」な人たちでした。この世代に顕著な、仕事一筋で生きてきて趣味も持たないよう人たちが大半でした。いわば定年後の空白感を埋めるものとしてかなりいびつな「右翼思想」にたどり着いたようです。
比較的高学歴で、それなりの社会的な地位を持っている方が多いようです。ただ仕事一筋で生きてきたためか、一般的な教養には疎く、読書経験が少ないようです。日常生活ではそれまでは穏やかに過ごし、家族とも問題なく過ごしていましたが、ネット右翼にはまることで収入の多くをつぎ込むようになり、また訴訟を起されるなどして、家族との関係が悪化するケースが多いです(これは新宗教にはまる人と同じ傾向といえます)。
年代的に男尊女卑の傾向が強く、中国・韓国人に対する差別意識が強く、また同性愛の対する嫌悪感を持つ場合が多いようです。ただ元々は心の中で思っていても、それは表明することはあまりなかったのですが、ネットの言説に煽られる形でエスカレートするようです。またこれまでの仕事経験からかか、年功序列的な考え方が強く、年長者は絶対的に正しいと思っています。
古谷さんがネット界隈で注目されるようになったのは、年齢的な若さを買われ、シニアに偏りがちなネット右翼を、若年層にむけてウィングを伸ばしたいという思惑があったようです。しかし彼らが古谷さんに求めたのはあくまで看板的な役割で、彼が自説を展開することは望んでいませんでした。古谷さんがある時、今のやり方ではこれ以上層の広がりを持てないと提言したところ、言われた年配者は自身に対する批判・侮辱と受け取り、彼を悪しざまに罵り、ネット右翼界隈から追い出したそうです。そしてこれまでの評価を一変させ、「反日」「左翼」と公的な形で批判しだしたそうです。古谷さんはこの体験から、ネット右翼に対して疑問を持つようになったそうです。
*1戦争論
*2架空戦記物

ネットの海で感じること


ネット右翼の信奉者が多い百田尚樹(1956~)さん
探偵ナイトスクープのチーフライターを務めていました
考え方はともかく、人柄は嫌いじゃないです
(番組は最近つまらなくなって観なくなりましたが)
【画像引用 産經新聞】
筆者は一時期、yahoo、Microsoft、YouTubeなどののコメント欄を読んだり書いたりしていたことがありました。自分の好きなアニメの感想を述べたり、好きな「推し」について語ったり、などのヲタク的な文章が見られ、私もそのラインで文章を書いていました。しかし圧倒的に多い書き込みは、こういったものではありませんでした。
ひとつは多分にセクハラ的な文章で、有名人を対象にありえない話が書かれていました。もうひとつはネット右翼による書き込みです。政治についてまとも語っている文章もあるのですが、大半が罵詈雑言に終始するものでした。左翼やリベラル系の書き込みもあるのですが少数派でした。
政治的な事件や事柄に絡めて書かれたものが大半ですが、パターンはほぼ同一で、自分の気に入らない相手に対しては「反日」と断定し、「中国」「韓国」を表す蔑視表現が使われます。しかも取り上げてる対象が「中国」「韓国」と関りない話題、例えばLGBTについて書いていても、なぜか「〇〇人は日本から出ていけ」といった表現になります。
最初は面白おかしく見ていたのですが、どうも冗談とは言えない内容に抵抗を感じ、愚かにも(笑)反論をしてしまいました。きちんと反論してきた方もいましたが、大半は私に対する罵詈雑言に終始し、「反日」はまだしも何の根拠もなく私のことを「○○人」や同性愛者と(別に言われてもかまいませんが)断定してきました。
最初は私も真面目な内容を書いていたのですが、どんどんバカバカしくなってきて、若干揶揄するような書き方になり、それに対して相手もエスカレートするという、悪循環に陥りました。この話を娘をしたら「リスクが高すぎるし、結局相手のやってることと変わらん」と諭されました。それからは基本的に書き込みはしなくなりました。ただここでの経験からエスカレートしていくという感覚は理解できました。ある種の中毒性があり、例えばゲームにはまってやめられなくなる経験と同じものを感じました。
それとこれ別の記事にも書いてことですが、ネット右翼にとって、LGBTは共産主義の回し者と断言するのですが、実際に反LGBTを掲げているのは、宗教的なものを除けば、中国・北朝鮮・ロシアといった共産主義国家か全体主義国家が大半です。またネット右翼の信奉者的存在である安部元首相に関しても、ネット右翼は反韓の思想家として捉えていましたが、実際には統一教会を通して、北朝鮮まで繋がっていました。
こういったことを指摘すると、大体スルーされてしまい、なんだかよく判らない反論をされました。歴史を見ていると、一見反対する勢力が繋がっているということはよくあることで、あまり評価したくありませんが、そういう政治のあり方もむべなるかなという気持ちも私にはあります。しかしネット右翼の人たちは、そういう考え方が出来ないようで、ある意味純粋な人たちなのかもしれません。

おわりに


「ちゃんとした」右翼の代表的思想家福田恆存(1914~1994)さん
シェークスピアの研究家としても有名です
ネット右翼の方は、名前もあまり知らないようです
【画像引用 AMAZON】
たびたび書いてきたように私もシニア世代です。ただ私はこの世代には珍しく。結構多趣味です。若いころに自分が何者なのかといったことに悩み、その過程で文学・思想・音楽・美術などで答えを見つけようとしました。答えが見つかることはなかったのですが、年齢を重ねるにつれ、悩みの大半がどうでもよくなりましたが、文学・思想・音楽・美術に対する気持ちは変わらず、今も愛好しています。
しかし年齢を重ねていくと、全く別の悩みが産み出されてきました。「孤独」です。特に妻を先に亡くしたことで、どうしようもないものとしての「孤独」が浮かび上がってきました。妻の亡くなった後、女性声優に興味を持ったのも、寂しさを埋め合わせる行為であるような気がします。
おそらくシニア世代のネット右翼は、こういう「孤独」を抱えているような気がします。この「孤独」を回避する処方箋はなく、いずれやってくる「死」を迎える以外すべはありません。しかし罵詈雑言の書き込みで、本当に「孤独」は癒されるのでしょうか。そういう意味で彼らもこの時代の生きにくさの犠牲者なのかもしれません。とはいえ他者を侮蔑することで、「孤独」を埋め合わせても、結局思わぬ形で晩節を汚すだけの様な気がします。残りの人生はもっと楽しいことで生きていきたいです。

ネット右翼の「聖地」靖国神社
一度行きましたが、なかなか良いところです
喫茶店の珈琲はまずかったですが(笑)
【画像引用 Google】

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local_offerevent_note 2023年5月2日
  • スピノザ

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