テロルの清算(3)統一教会編

はじめに

統一教会本部
【画像引用 やや日刊カルト新聞】
これまで「テロルの清算」のタイトルで、アニメ作品で描かれたテロリズム、連合赤軍によるテロリズムについて書きました。今回の記事で取り上げるのは統一教会に関わるテロリズムの問題です。ここで考察するテロリズムはふたつあります。ひとつは統一教会によるテロリズムです。統一教会が直接暴力を振るったわけではありませんが、詐欺商法などによって自殺者まで出ていることを考えれば、テロリズムと言っても構わないと思います。もうひとつは統一教会に対して向けられたテロリズム、山上哲也被告が安倍晋三元首相に対して行った射殺事件です。この記事はこの射殺事件を中心に据えながら、統一教会の問題について触れていきたいと思います。統一教会に関しては以前「宗教2世問題について」のタイトルで記事を書いていますので、そちらも参照して頂けるとありがたいです。
宗教2世問題について

山上被告の道のり

統一教会主催の会で流された安倍元首相応援発言の様子
【画像引用 個人ブログ】
山上哲也被告は1980年に生まれました。父親は建築関係の仕事をしていましたが、仕事の行き詰まりからうつ病になり84年に自殺しました。91年には母親が統一教会に入信しました。そして父親の生命保険の受取金全額を教会に献金しました。
94年には親族が大量献金に気が付きましたが、98年には祖父名義の土地を家族に無断で売却、その後祖父が亡くなると経営していた会社を母親が継ぎ、会社のお金を献金するようになりました。これにより山上家の経済情況は逼迫し、山上被告は大学進学を断念せざるえませんでした。
2005年山上被告は保険金を兄と妹に残すため、自殺を図りましたが未遂に終わりました。韓国に行っていた母親に連絡されましたが、母親は戻ってきませんでした。このことに驚いた教団本部は2000万円の返金を申し出ました。また2009年には山上被告の伯父が、教団本部と交渉し、総額を曖昧にしたまま伯父を通さずに、母親に3000万円返金の書類を送ってきました。しかし金額がきちんと払われることはありませんでした。
2006年に第1次安倍内閣が発足しましたが、2007年には病気を理由に首相を辞任しました。しかし2012年に再び首相に返り咲き、2020年まで続く長期政権になりました。この間安倍元首相は、統一教会との関係を深め、選挙協力などを行ってもらいました。
2010年に山上被告はツイッター(現X、以下ツイッターと表記)アカウントを開設しました。2015年に兄が自殺しました。2019年には統一教会総裁韓鶴子氏の襲撃を考えましたが、警備の問題から断念しました。同年安倍元首相の襲撃を連想させる最初の投稿をツイッターに載せました。
2021年に安倍元首相が統一教会の大会にリモート登壇して、韓鶴子総裁を礼賛しました。このメッセージの存在が山上被告は安倍元首相襲撃の意思を固めたようです。

安倍元首相の道のり

統一教会現総裁韓鶴子氏
【画像引用 COURRIER】
上記で書いたように、安倍元首相がリモートでの発言を行ったことが、決行への決定打となったようです。特定の宗教との関係を誇示することは、それ以外の協力する宗教団体にとってあまり心地よいことではありません。従ってあまり表には出ない形で協力関係を結ぶのがこれまでやり方でして。
しかし安倍元首相はこのやり方を踏襲せず、あからさまに関係をうたいました。なぜこのような判断に至ったのか判りませんが、おそらくかなり自分の影響力を保つことへの焦りがあったのではないかと思います。
しかしそれ以上に思うのは、政治家としての力量のなさではないかと思います。攻撃的な言動でネトウヨや高齢者には受けの良かったですが、反面敵対者を多く作ってしまいました。また政策にも一貫性がなく特に経済政策で成果を残せませんでした。祖父である岸信介と比べて政治家としての格の違いが大きく、それは安倍元首相にとってかなりのコンプレックスだったようです。そういったもろもろの事がらへの焦りが、統一教会へのつながりをより強め、そのことが結果的に事件を引き起こしたと言えなくもないというのも、ある意味皮肉な話です

事件の影響


統一教会との関係が深いとされる細田博之衆議院議長
【画像引用 NEWS EVERYDAY】
事件後様々な情報が流れ出しました。最初に射殺事件が報道された際は、反安倍派の左翼ではないかとの考えが、メディアやネット流れました。しかし山上被告の犯行動機が統一教会への憎しみであると判った時点で、報道のスタンスが大きく変わりました。また関係者の間では承知の事実だったのですが、安倍元首相をはじめ、自民党の大半の議員(国会・地方含めて)が選挙協力という形で統一教会と繋がっていることが暴露されました。また過去の事と思われていた、様々な詐欺商法や合同結婚式が未だに行われていることも知られるようになりました。
また左翼的ではないかと思われた山上被告でしたが、犯行直前まで行っていたツイッター書き込み内容が、ネット右翼寄りの書き込みで、男尊女卑思想、民族差別、自己責任論といった書き込みであふれていることも判りました。(嫌韓的な書き込みも目立ちました、これに関しては統一教会への批判が、嫌韓に拡大しているように思えます)。
これまでメディアは自民党政治や宗教問題に関して、あまり語ろうとしないスタンスを取り続けていましたが(ジャニーズ事務所の性加害問題に対する姿勢にも繋がります)、多くの情報によって取り上げざるを得なくなり、最初はおずおずとその後次第に積極的に報道がされるようになりました。
この一連の報道に最も動揺したのは、保守派の論客やネット右翼の人たちでした。山上被告の行動は左翼的どころか、むしろ韓国につながった安倍元首相を「断罪」するものでした。保守派の論客はそのことを薄々知っていて口をつぐんでいたようですが、多くのネット右翼にとっては青天の霹靂で、彼らが知ったのは、自分たちのヒーローだった安倍元首相が、自分たちが嫌悪する韓国系の団体に繋がっているという現実でした。
現在に至るまでこの矛盾は解消されておらず、保守派の論客は、ことさらのように安倍元首相の功績(専門家からは疑問視されているものが多い)を持ち上げ、ネット右翼はネットのコメント欄にLGBT、原発の処理水問題、K-ポップに対する批判を、自分たちに課せられたトラウマから目を背けるためにか、より過激な表現に突き進んでいるように思えます。
またこれと同じ流れで、射殺事件を山上被告の単独犯ではないと言ったり、組織的な犯罪が行われたといった言説がいくつか出ましたが、上記の保守派・ネット右翼の悪あがき的な側面と、メディアやネットが人目を引きたいがためだけに、陰謀論的な陳腐な物語を垂れ流しているだけに思えます。これらの事柄は事件の余波で生まれたものですが、山上被告にとってはあずかり知らぬ事がらだと思います。

これはテロリズムなのか


現場に落ちていた事件に使われたと思われる手製の銃
【画像引用  NHK政治マガジン】
この記事を書いていて大きな疑問に突き当ります、この事件は本当に「テロ」だったのか?
Wikipediaを見ると、テロリズムに関して次の定義が書かれています。「テロリズム(英語: terrorism)とは、政治的な目的を達成するために暴力および暴力による脅迫を用いることを言う。」ここでポイントになるのは「政治的」という言葉です。政治家の暗殺ということで、この事件は「テロ」 として扱われました。
しかし山上被告は今の政治体制を変えようという意思は、ツイッターの書き込みからは伺えず、言葉の端々から読み取れるのは統一教会に対する「私怨」の感情で、いわば「仇討ち」と言ってもよいものです。しかし山上被告の「私怨」の感情は必ずしも安倍元首相に向かっている訳ではありません。ツイッターでも特定の個人への「私怨」は語っていません。
そういったことから、識者の中には彼の言動から、ロストジェネレーション世代が持つ、社会から断絶された怒りが、暴力的な行動に向かわせたという意見もあります。たしかにそういった側面もなくはないと思います。しかし彼が受けていた苦しみは、母親の統一教会の献金活動による、家族の経済的活動の破壊という具体的なものがあってのことなので、例えば秋葉原や京アニの事件の様な多分に妄想的な被害者意識に基づいた事件とは異質なものに思えます
結局、山上被告が行おうとしたのは何だったのでしょう。様々な評論を読んでも、そうかなと思わせつつ、どこか違うなあと思います。彼の身近にいたジャーナリストが「結局よく判らない」と述べています。おそらく山上被告自身も自分の行ったことの意味を捉えきれてないのではないでしょうか。
そもそも人間の行いは、こういった事件に限らず言葉で単純に定義できるものではないと言えます。今後裁判が進めば様々な証言が出てくるでしょう。それらを踏まえつつ一過性の問題とせず、長い時間の中で考えていきたいと思います。
主要な参考文献
「自民党の統一教会汚染2山上徹也からの伝言」鈴木エイト(小学館)
「「山上徹也」とは何者だったのか」鈴木エイト(講談社)
「山上徹也と日本の失われた30年」五野井郁夫・池田香世子(集英社)

統一教会旗
【画像引用 2ちゃんねる】

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local_offerevent_note 2023年10月3日
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