日本の映画音楽(1)武満徹

武満徹(1930~96)の映画音楽

武満徹
【画像引用 ショットミュージック】
以前書いたいくつかの記事の中で、現代音楽への興味について書きましたが、作曲家のことを調べていくと、日本の現代音楽の作曲家が、映画音楽の作品を数多く書いていることを知りました。特に武満徹が多くの映画音楽を書いており、コンサート作品では出来ないような様々な試みを行っていることを知りました。1970年代末の話なので、レンタルなどというものはもちろんなく、音楽をつけた作品も文芸作品が多く、TVで観ることも難しく、映画館に通って観ていました。
武満徹が関わった映画作品は、当時の著名な監督の作品が多く、篠田正浩(1931~)、大島渚(1932~2013)、勅使河原宏(1927~2001)、中村登(1913~81)、小林正樹(1916~96)、といった監督たちを、武満徹を通して知り、そこから日本映画への興味もわきました。以下いくつかの印象に残った作品について書いてみたいと思います

乾いた花(1964)

映画「乾いた花」より
【画像引用 BS12】
「乾いた花」は石原慎太郎(1932~)の短編小説を基にした、篠田正浩監督の作品です。ストーリーはムショ帰りやくざ(池部良(1918~2010))と、謎の女(加賀まりこ(1943~))、若いやくざ(藤木考(1940~2020)の三つ巴の愛憎劇です。どの登場人物も生きることに飽きて、厭世観に取りつかれています。池部良の虚無感と、加賀まりこのコケティッシュな美しさに惹かれる映画でした。
映画音楽は武満徹と高橋悠治(1938~)の共作です。劇中ではメロディのある音楽は、タイトルバック以外ほとんど使われておらず、賭場で使われる木札を打ち鳴らす音、時計の音、それらを模した弦楽器のコル・レーニョ奏法(*1)、電子音が渾然一体になった音が、映画の持つ虚無感と響きあって、鳥肌の立つような快感を感じ取りました。
また映画の終盤近く、池部良がやくざを刃物で殺すシーンで、突然ヘンリー・パーセルのオペラ「ディドとエネアス」の音楽が流れるシーンは、バロック音楽特有の「乾いた叙情」感が、映画を締めくくるにふさわしい内容でした。

二十一歳の父(1964)

映画「二十一歳の父」より
【画像引用 Facebook】
「二十一歳の父」は曽野綾子(1931~)の原作(1963)で、中村登監督作品です。ストーリーは21歳の大学生の主人公(山本圭(1940~))がエリートの父(山形勲(1915~96))と兄(高橋幸治(1935~))に反発して家を飛び出し、パチンコ屋に努めながら盲目の少女(倍賞千恵子(1941~))と結婚するが、というような話です。
ネタバレになるのでこれ以上は書けませんが、物語は悲劇的な結末を迎えます。この映画を観たとき、人を好きになるのはとても大変なことだなあと感じいりました。しかし後に自分自身が障害者の女性と結婚することになるとは夢にも思いませんでした(妻と一緒にこの映画を観たときにもそのことを言われました)。
この映画の音楽は上記「乾いた花」と対照的に、とても叙情的な音楽で、物語の悲劇性を高めていました。映画の終盤近く、主人公の友人(勝呂誉(1940~))が語る痛切な思いのバックにプリペアードピアノ(*2)の乾いた音響が、楔のように心を打ちました。
(映像を探しましたが残念ながら見当たりませんでした。レンタルDVDはあるようです。)

はなれ瞽女おりん(1977)


映画「はなれ瞽女おりん」より
【画像引用 Ameba】
「はなれ瞽女おりん」は水上勉(1919~2004)の原作(1975)による篠田正浩監督作品です。ストーリーは瞽女の女(岩下志麻(1941~))が脱走兵の男(原田芳雄(1940~2011)と恋仲になり、逃避行を行うといった内容の話です。
主人公の岩下志麻は夫である篠田正浩の監督作品に多く出演していましたが、この映画はその岩下=篠田作品の中では最も美しい作品です。この作品に限らずこの時代の岩下志麻はとても美しく、おそらく私が最初に好きになった女性像だと思います。
武満徹はこの映画音楽のCDのライナーノーツに、音楽を作るのに際して、瞽女歌と自身の音楽がぶつかってしまわないようにするために、かなり苦労して音楽を作ったことを語っています。とても叙情的で美しい音楽ですが、武満徹作品でしばしば出てくる「一音の表現」が使われており、特に主人公が初潮を迎えたことを、雪道に一凛の薔薇が落ちることで表現したシーンがあるのですが、薔薇が落ちた瞬間にハープの一音だけがなるところは、なにか幻想的な美しさを感じました。


【画像引用 HMV】
武満徹は映画音楽を書くに当たって、完成した作品に音楽をつけるのではなく、脚本段階から関わって、作曲したそうです。武満徹は映画中で鳴らされるすべての音と音楽が一体となり、単に情緒的に音をつけるのではなく、映像と拮抗するものとして音楽を捉えていました。また映画音楽の中で試した方法を、コンサート作品に移すことも多く、邦楽器を使った作品などがその典型でした。
武満徹は若いころから映画を観ることが好きで、多くの映画音楽から様々な手法を学びました。一般的にコンサート作品と比べて一段低い存在と見られがちな映画音楽ですが、武満徹はある意味コンサート作品以上に映画音楽に心を傾け、多くの映画音楽を残しました。彼の作品はCDなどで多くの作品を聴けますが、できれば映画と共に観て聴くのが最善だと思います。
*1 コル・レーニョ奏法
コル・レーニョ奏法
*2 プリペアードピアノ
プリペアードピアノ

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local_offerevent_note 2020年12月18日
  • スピノザ

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